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ドアを開けると、日中の暑さを濃縮したような熱気が飛び込んできた。
同時に自分の家の匂いがふわりと香る。
化粧の匂い、柔軟剤の匂い、香水の匂い、甘ったるいそれらの匂いに混ざって、自分が毎日シンと交わすセックスの生々しい匂いが微かに残っているような気がした。
少し慌てた麗子は、視線をこっそり河野に向けたが、彼は自分のスマホをいじるのに夢中になっているようで、彼女の焦りに気付いていない。
ホッと安心した麗子はパンプスを脱いで部屋の中へ入っていった。
◇
ピッとリモコンで室内の灯りを灯すとともに、エアコンの電源もいれる。
あまりものを置かない麗子の部屋は、常に片付いていて、無機質な印象を受ける。
そんな殺風景なリビングの隅に、セックスロボット・シンがスリープモードで立っていた。
「……こんなの見られたらマズイよね」
そうひとりごちた麗子。
お茶に誘ったものの、このロボットの存在を河野に知られたら軽蔑どころでは済まされないかもしれない。
結果として彼が部屋に上がるのを辞退してくれたことは好都合であった。
そもそもこの家は、シンとの淫戯の名残がいっぱい残っている。
見た目にこそわからないけれど、ここでして来た淫らなことが一気にフラッシュバックして、身体の中心が疼いた。
そんな麗子を、ジッと見つめるシン。
スリープ状態であるはずだが、茶色の瞳は何か意味ありげな表情を浮かべているような気がした。
それに気付かない麗子は、リビングテーブルの椅子の上に置きっ放しの通勤用のバッグのもとに駆け寄った。