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ドアの向こうで麗子の悲鳴が聞こえた時、河野は空耳かと思ってすぐ反応ができなかった。
紳士な彼は、ドアレバーを握るものの、そのまま動かずにいる。
女性の部屋に断りも無しに上がり込んでいいわけがない。
そう思いつつも、額にはじわじわ汗が浮かんできた。
もし、強盗が彼女の部屋に潜んでいたら?
いや、あれほどの美人だ。もしかしてストーカーに狙われている可能性だって充分あり得る。
様々な逡巡を頭の中で駆け巡らせていた河野は、ほんの少しだけドアを開けて中の様子を伺おうとしたが、
「いやあっ、やめてぇーー!!!」
と、部屋の奥から聞こえてくる絹を裂くような悲鳴で、これは躊躇っている場合ではないと判断し、すぐさま部屋に飛び込んだ。
靴を脱ぐ暇もなく踏み込んだ河野は、迷わず廊下の突き当たり、灯りが漏れた部屋を目指す。
麗子の家がいい匂いするとか、掃除が行き届いているとか、普通に訪れたならそんなことに気付いていたかもしれない。
だが、さっきのただならぬ悲鳴で、河野の頭の中は真っ白になっていた。
その悲鳴はどこか艶っぽいものだとは気付かないまま、彼はリビングのドアを勢いよく開けて、後輩を助けるために、その身体を部屋に飛び込ませた。
「……葉月!!」
しかし、目の前に広がる光景は河野の動きをピタリと封じる。
彼の涼しげな瞳に映ったものは、「鬼の麗子」と呼ばれた仕事一筋の後輩のあられもない姿だったから。
「……お客さん?」
振り返る男の瞳には、何の感情もこもっておらず、目と目が合った瞬間ゾクリと河野は身体に鳥肌が立った。
何だ、コイツーー?
麗子はリビング中央にあるソファに、一糸纏わぬ姿で横になっていた。
いや、横にさせられていたと言うべきか。
彼女の白くスレンダーな身体は、目を見張るほどの美しい男に組み敷かれていた。