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そんな密かな片想いの相手が、無邪気に後輩の成功を心から喜んでくれている。
それだけで麗子は充分嬉しかったのだが、さらに河野は思いもよらないことを口に出した。
「……それでさ、葉月。今夜お祝いとしてどっかメシでもどうかなって思ってんだけど……」
「え?」
麗子と河野は二人で食事をすることはたくさんあった。
だが、麗子が驚いたのはこれが完全なプライベートなお誘いだったから。
二人が食事をするのはいつも出張先や営業周りのついでであって、あくまでビジネス上の付き合いのみ。
それが今、目の前の想い人は純粋に麗子のお祝いをしたいと申し出てくれている。
もちろん麗子にそれを断る理由なんてなかった。
「ホント!? 嬉しい!!」
信じられないと口元を手で覆い隠しつつも、目をキラキラ輝かせて喜ぶ麗子に、河野も嬉しくなる。
ずっと面倒を見てきた可愛い後輩。
見た目こそ派手で、気の強そうな美人の麗子だけど、仕事に対する姿勢を彼は高く評価していた。
そんな彼女を、河野は性別を超えた仕事の仲間として認めていたから、彼は純粋な気持ちで麗子を食事に誘ったのである。
これが、単なる先輩後輩の関係に大きな変化をもたらすとは知らずにーー。