L新たな容疑者-2
松山の山村の一角に大道の表札の古い家がある。
誰もいない様だ。隣の家に向かった。隣といっても5分ほど歩いた先だ。
「ああ、爺さんが一人いるけどこの時間ならまだ畑だよ。夕方になったら帰って来るからここで待ちゃいいよ。」
お茶をふるまってくれた。「三年前までは婆さんもいたんだけどね。死んじまった。嫁や孫が川之江にいるもんだで
連絡しようとしたが行方不明だった。村人だけの寂しい葬式じゃったな。」
数時間世間話をした後「ぼちぼち爺さんが帰って来る時間だよ。」の言葉に立ち上がり礼を述べた。
「どちら様ですか。」「捜査一課の多摩川と申します。」田川は警察手帳を呈示した。
「それがな。嫁と孫の居場所は分からんのです。
事件の後マスコミから逃れてしばらくはここに潜伏してしていたんですが見つかってしまって出て行ったのです。
探さないでくれって言われていたので捜索願は出していません。」
「あれからもう10年以上になりますがその間、何の連絡も無いのですか。」
「そうなんです。まだ若い嫁でしたので息子の事は忘れて再出発して欲しかったんです。だから探しませんでした。」
「奥さんが行きそうなところがあれば教えて頂けませんか。」
「三年前にうちの婆さんが死んだ時、心当たりはすべて当たったがどこにもいなかったんです。
知らない土地で幸せに暮らしているんだろうと思う事にしたんです。」
「その息子さんの奥さんの写真はありませんか。」
「それが不思議な事に1枚も無いのですよ。ちょと待って下さいね。」
箪笥の引き出しから1枚の写真を取り出し多摩川に見せた。
「これが1歳の孫の写真です。この子を抱いているのが嫁ですが姿は写っていません。」
2〜3の質問をした後、ここで得られる情報には実はないと判断しておいとました。
その時長野県警から連絡が入った。事件発生以来お世話になっている浜田警部補からだ。
「長野の本屋や岡田信二の周りにはその姉が現れたという情報はありません。
引き続き調査しますが今のところ不審な女の話は出ていません。」お礼を述べ継続調査は止めて貰った。
「やっぱりこの女もABC印刷の先には行けていない様だ。それはそうだ。
刑事の俺たちが必死に調べても分からないんだ。一般の女性に分かる訳はないよ。」
「そうだな。という事はこの女は不審な容疑者ではあるが犯人ではないかも知れないね。」
「この大谷史郎という男、僕たちの知らない所で色んな悪事を働き何人かの人達に命を狙われていた可能性もあるよ。」
「そうなんだ。大谷史郎として殺人。岡田信二として窃盗。久永光輝として脅迫。
分かっているだけでも三件の犯罪を犯しているよね。僕達の知らない所でなんかやっている可能性は大だね。」
「大阪のABC印刷の奥さんだって脅かされて連れ去られたような気もするよ。」
「それなら2年間も監禁同様の生活を強いられていた事になり怨恨の気持ちを抱いてもおかしくないよね。」
「でもその程度の恨みはあっちこちで買っていただろうし容疑者だとは呼べないだろう。」
「しかし姉だという謎の女の事はもっと調べないといけないね。彼女こそ現時点では最大の容疑者だ。」
「よし明日もう一度彼女の足跡をたどってみよう。彼女を見た二人、永田校長と別子学園理事を訪ねるんだ。。
そしてこの二人にはモンタージュの作成に協力して貰うんだ。」