E事件の進展-3
「本屋の久永さんにあげる時そばに誰かいた?」「はい。同じ野球部の二人がいました。あっ。」
「どうかしたの?」「いえ何でもありません。」
「君はまだ何か隠しているね。正直に言わないとだめだよ。その二人って誰なんだ。」
しばらく沈黙が続く。「言わないなら野球部全員を調べる事になるよ。」
「言います、全部お話します。」三か月前の本屋での出来事を話しだした。
三人で立ち読みしながら話していたらしい。「俺、成長が早いからこのバットもう軽くて駄目だわ。お前らいらんか?」
「翔太のバットは僕らじゃ無理だよ。大人用だもんな。」
後ろで聞いていた本屋の主人が「それじゃ僕に売って呉れないか。寝る前に素振りがしたいんだ。」
「おじさんの店のDVD1枚と交換しようよ。」「いいけどこれは駄目だよ。18歳未満には渡せないよ。」
「おじさん、頼むよ。このDVDが欲しいんだ。」「お前ら中坊のくせにこんなのに興味があるんか。
俺からは渡せないけどお前らが万引きしても俺は向こうを見ているから気が付かないはずだよ。」
そんな事があって事実上は金属バットとDVDを交換したようだ。
その時、麻紀子がうめいた。「くっ、あの男・・・・・・」
実は麻紀子が久永の脅迫に簡単に屈伏したのは息子の万引きが防犯カメラに収められていた事もあったからだ。
違法金利だけなら貸付金を帳消しにしたり抱かれること無かったはずだ。
「翔太君よく話してくれたね。今回の万引きの事は聞かなかったことにするけどもうやっちゃ駄目だよ。」
多摩川はバットの指紋は証拠にならないなと思いながら権藤家を出て健一の家に向かった。
「健一君もう一度確かめたいんだが二人の会話ははっきり聞こえたの?」
「ええ、電柱の影から聞いたので聞き違いはないと思います。距離にして3mくらいですよ。」
「そうだよな。でもトラブルなんて無くて表までお見送りしただけだって言うんだ。」
「それは嘘だよ。このおばさんの顔を見てよ。怒りに震えた怖い顔だよ。」
「えっ君は写メにとっていたんだ。確かにお見送りの表情じゃないよな。君の言う通りだ。
どうだろうこの写真警察に提出して呉れないか?」「はい。いいですよ。」
翌日麻紀子の姿は警察の取調室にあった。「あの子写メまで見せたのね。本当に恐い子だわ。」
そして警察の熱い追及についに折れた。高利貸しも彼との肉体関係も素直に話し出した。
防犯カメラのDVD万引きの映像で脅されて久永に屈伏した経緯や100万円を貸すに至った流れを説明した。
「それじゃ、彼を殺したいと思っただろ。」「はい。この世から消えてくれたらいいのにと思いました。」
「それでやっちゃったんだ。」「いえ決して私はやってません。疑われても仕方ないけど私はやっていません。」
「じゃ、あの日あなたは何処にいましたか。何をしていましたか。」「それが覚えていないんです。」
「それさえ思い出して呉れたら疑いは晴れるんだけどね。」
「刑事さんに聞きますけど10日前何をしていたか覚えていますか?」
そう言われてみればその通りだ。事件からもう10日も経ってしまったんだ。
利息制限法違反には罰則が無いのだ。拘留するのは無理と考え釈放した。