紅館の花達〜蒼猫花〜-7
(でも………めげそうだよぉ………)
今日一日、スーとの関係は正に最悪だった。
スーは完全にゼロを避けて、目も合わせてくれない。
レズビアンだと知ったくらいでここまで嫌わなくてもいいじゃないかとゼロは嘆いた。
『おやすみ、スーちゃん。』
『………』
その日の夜も虚しい一人劇となっている。
スーは部屋に帰って早々に着替えてベットに入ってしまった。
一人ですることもなくゼロもベットに入る。 スーは隣のベットで背を向けて寝ていた。
スーの背中を見ながら目を瞑る。
明日こそは友達になれますようにと願いながら………
深夜、ゼロは何かが聞こえて目を醒ました。
暗い中、隣のベットを見る。
『んん………あぅぅ………』
うなり声。 スーがうなされていたのだ。
『いやぁ………いや、来ないで………』
『スーちゃん!?』
ベットから降りて駆け寄る。 スーの顔は汗びっしょりで、表情は苦痛すら感じられた。
『スーちゃん!?』
肩を掴み、揺さぶり起こす。
『はっ………い、いやぁぁ!』
目を開けたスーはゼロを見るなり思いきり突き飛ばした。 その力は女性とは思えない強さで、ゼロは壁に思いきり体を打ち付けてしまった。
全身に走る激痛に耐えながら、スーを見る。
『……はぁはぁ………はぁはぁ………』
スーは肩を大きく上下させて空気を吸い込んでいる。
『スーちゃん………?』
『ひっ!』
ゼロが声をかけると、スーは怯えたような声をあげてベットから落ちそうな位後退った。 とても昼間見た凛々しいスーとは思えない目をしている………
『ご、ごめんね………なんでもないよ♪ ゼロゼロは寝るからね………』
スーが怯える理由はわからない。 でも、今は触れない方が良い。
そう思ったゼロは精一杯の笑顔で笑い、痛む体をベットに横たえて目を閉じる。
『………ごめんなさい。』
そっと、打ち付けた背中を撫でる感触がした。
『スーちゃん………』
『ごめん、痛かったでしょう………?』
スーがゼロのベットの側に立って、背中を撫でてくれていた。
『ううん、大丈夫だよ。
スーちゃんは大丈夫?』
『うん………驚かせてごめんね………』
『怖い夢見ちゃったの?』
そう聞くと、スーはうつ向いて自分のベットに座った。
『………私ね、紅館に来る前はね………娼婦館に売られたの。』
『………』
『そこはね、女が女の相手をする専門のとこで、私は………うん、ちょっとの間そこに居たの………』
スーの言葉から、そこに居た時の事が想像出来た。 だからスーは嫌いなのだ。
レズビアンが………
『客………初めての客を取らされる前に逃げたのよ。
街を逃げ回っていたら、たまたま通りすがった紅様に拾われて、ここに来たの………』
話終わったスーは、自分のベットに入って此方を向いた。
『私、レズビアンは嫌いだけど、あなたは優しいから嫌いじゃないよ。
………冷たくしてごめんね。』
スーがそっと微笑んだ。 昼間見た微笑みよりも自然なスーの笑顔。
『ねぇ、スーちゃん。
………良かったら一緒に寝ない?』
『えっ?』
ゼロは自分のベットを抜け出して相手のベットに潜り込んだ。
『一緒なら、怖くないと思うんだよ。』
スーの驚いた顔がすぐ近くにある。
ニッコリと笑って、スーの手を握り、目を閉じた。
『おやすみ、スーちゃん。』
『そうだね、二人なら怖くないよね。
おやすみ、ゼロ。』
スーは目を閉じる。
すると、たちまち寝息を立てて眠ってしまった。
余程眠かったのだろう。 もしかしたら、毎晩うなされていたのかも知れない。
『もう、眠って良いんだよ。 スーちゃん。』
ゼロはそんなスーの頭を撫でて、自分も眠りについた。
チュ………
寝ているスーの頬にキスをしたのは内緒の話。