立花文恵(34)-5
昨夜、散々セクハラ発言を浴びせた文恵。
それが一夜明けて何を言ってきたかと、俺は若干のビビりを覚えながらロックを解除し、内容を読んだ。
一読してまた驚いた。
我が眼を疑って、これは現実なのかと頬をつねり痛みを確かめたほどだ。
『うちの旦那さんと会ってみる?』
確かにそう書いてあった。
続けて、少し長めのメッセージが届いた。
『昨日帰ってから寿くんのこと話したら、他の人とエッチしてみるのも悪くないんじゃないかって言うの。浮気とかじゃなくて旦那さん立ち会いでのお勉強みたいな?』
おいおい。
こんなケースは初めてで、俺は立ち尽くしてしばし呆けたようになった。
お嬢様育ちなのは分かっていたが、あまりにも世間離れしていないか。
飲み会でエロく迫られたことを、その日のうちに夫へと報告。
さらにはその夫までが、寛容と言おうか頭のネジがぶっ飛んでいるのか、許容の旨を返答とは。
正直、狐につままれているような気分だった。
返信を打とうとしても、どう返せばいいか困惑するばかり。俺は思いきって文恵の番号に発信した。
朝の七時半で、もしかしたら夫と朝食の最中かもしれない。
『あっ、おはよー』
宵越しの酒が残っているのか、ほわほわした文恵の声だ。
「おはよ……ってか、あれ、どういうこと!?」
俺はすぐさまメッセージの件に触れた。
『読んでくれた? どうって、あのままのことなんだけど。旦那さんもう仕事出ちゃったんだよね。また夜にでもかけてくれたら、旦那さんとも話せるかな』
「いやっ……マジな話なの!? ちょっと信じられなくて」
『あたしもびっくりだったんだけどね。でも、旦那さん、かなり考え込んだ上で言ってくれたんだよ。文恵のことそんなに女として意識してくれる相手なら、抱いて貰うのもアリなんじゃないかって』
「文恵さんの旦那さん、どういう人なんだ……寝取られ趣味があるとか?」
『何それ〜。旦那さんも変態なのかな』
愉快そうに電話口で笑う文恵だ。ちっとも深刻そうでないのが、天然っぽい。
『とにかく、連絡待ってるね』
「どうしよっかな……俺、今日バイトが五時までなんだけど、よければそれから文恵さんち行くけど」
『いいよ〜。直接会って話したほうがスムーズかもね。晩ごはん食べていく?』
まるで親しい友人でも招待するような口ぶりである。万事が軽い調子なので、いよいよ俺の混乱は募った。
文恵の住所を聞き、電話を切ってからも、俺はまだ夢の中にいるような心持ちだった。