投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

愉楽
【SM 官能小説】

愉楽の最初へ 愉楽 2 愉楽 4 愉楽の最後へ

愉楽-3

互いに歳をとっているとはいえ、夫との性的な交わりを絶たれていることに、妻であるわたく
しが、いえ、女としてのわたくしが何ら戸惑いや不満さえなかったなどと言うつもりはござい
ません。何よりも夫もわたくしも異性を知らないもの同士というきわめて特別な夫婦であった
わけでございますから、主人が(おそらくわたくしもそうでございますが)どんなに恥ずかし
い、性の情念に駆られようとしかたがないことだと今さらながら思うのでございます。

主人は色褪せた魔羅のなかに爛れる精液を溜め、わたくしは熟れすぎた肉襞の奥にかさかさと
した蜜汁を封じ込める、お互いに肌を晒しながらも交わりのない夫婦生活につかみどころのな
い情念みたいなものを刻みつけていく性愛への欲求は、昏い沼底でただぬるぬると澱み、淫靡
に冷えたものだけが残り続けているような感じさえしてくるものでございました。



夫の様子があきらかにそれまでと変化したのは、夫の甥のタクヤさんがこの家に来てからでし
た。

ナオミ、東京から甥のタクヤがここに来ることになっている、大学院の論文をここで書きたい
そうだ、よろしく頼む……朝の食事をとりながら、不意に主人がそう言ったのは、ある夏の日
のことでした。

わたくしは、主人に甥っ子がいることは知っていましたが、そのとき、そこに潜んでいた夫の
意図(それは夫が亡くなって初めて知ったことでしたから)など知る由もなく頷いたのでござ
います。

そうでございますか、ここは静かでとてもよいところですから、お勉強もきっとはかどること
でしょうね、と主人に言ったわたくしは、そのときは、甥という若い男性に何かしらの予感さ
えいだくことはなかったのです。


二十四歳のタクヤさんは、ひと目見ただけで風変わりな容貌をしていましたが、きめの細かい
瑞々しい肌からは若さが感じ取れました。つば広い女ものの帽子をかぶり、艶やかな黒髪を肩
まで伸ばし、背が高く、すらりとした容姿の彼は、若い女性のように甘い顔立ちをし、鳶色に
輝く瞳は、謎めいたビロードの光を孕んでいるようでした。

なだらかな丸みを帯びた肩を包み込んだ、胸肉が透けるような薄いピンク色のポロシャツから
細くしなやかな手首を覗かせ、白い半ズボンからは色白の太腿をあらわにし、しなやかに伸び
た脚先の、細く締まったカモシカのような足首は、女高生が身に着けるような白いソックスで
包まれていたのです。

彼の不思議な容姿は男性でありながら女性のようでもあり、女性のようでありながら男性でし
た。お恥ずかしいことにわたくしは彼をひと目見て、自身の中に消え去っていた淫らで、痒い
ような疼きさえ感じたのでございます。

「ぼくって、ここを訪れるのは初めてなんです。とてもいいところですね」と、彼は、額の汗
をぬぐい、背負っていた大きなリュックを縁側におろし、岬の先に広がる海を見ながら言いま
した。

「あなたは、この旅館の女将さんなのですか…」と言いながら、彼は、わたくしの首筋から足
先までからだの線をなぞるように視線を這わせたのです。女って幾つになっても男性の視線に
は敏感なものです。まるで若い女のようにわたくしは、彼の視線に顔を赤らめました。


愉楽の最初へ 愉楽 2 愉楽 4 愉楽の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前