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愉楽
【SM 官能小説】

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愉楽-14

ある疑念にわたくしは悩まされました。もしかしたらタクヤさんを故意に家に招いたのは主人
ではなかったのか、それにしても、なぜ夫はわたくしたち夫婦のあいだにタクヤさんを呼んだ
のか……疑念は疑念を呼び、眠れない日が続きました。夫のタクヤさんに対する男色、タクヤ
さんとわたくしに対する嫉妬、タクヤさんの性器に対する欲望と不能であることに対する自虐
的な劣等感、そして異常と言えるほどのわたくしへの特異な性癖……様々な思いがわたくしの
中で交錯し、夫という人物の中の奥底に潜む、迷路のような性の不可解さに苦しむことになっ
たのでございます。

その解決の糸口は、夫の遺品となった手帳に混じっていた、一枚の古い写真でした。
写真に写っていたのは、鞭を手にした黒い下着姿の若い女と、彼女の足元に全裸で跪いている
中年男の写真でした。その男の恍惚とした端正な顔……男は、わたくしがまだ結婚する以前の
主人でした。写真の中の夫は首輪をされ、後ろ手に鎖の付いた革枷を嵌められ、まるでその
女に飼われた犬のように彼女の脚に頬を寄せていました。

主人がその若い女とどういうことをしていたのか、わたくしでも容易に想像できる写真でした。
女性に踏みにじられ、鞭を打たれて性的な悦びを感じる殿方がいること、わたくしはそういう
世界には疎かったのでございますが、夫はそういう男だったのだと、いや、女性とふつうに交
わることのできない不能であるからこそ、そういう特異な性的快楽を求めたのだと……。
虚ろで恍惚とした写真の中の夫の瞳は、わたくしがこれまで見たこともない、あきらかにその
女を深く慕う光が滲み出ていました。

夫の古い手帳には、何度なく、その女と会う日付と時間と場所が記され、そこには「調教」と
も書き込まれてありました。女性に調教されることを悦びとするマゾヒスト……もしかしたら、
性的な機能を失っていた夫は、写真の若い女に肉体的な調教はもとより、おそらくもっと深い
精神的な調教を望んだのではないか、それは、肉体的には得られない性的快感を夫が極めよう
とした自虐的な欲望そのものだったような気がします。


タクヤさんを家に呼んだのは、主人の、わたくしに対する《意図》ではなくて、主人自らに対
する《意図》であったような気がします。タクヤさんという男性を使って性的に自らを追い込
もうとしたのは、わたくしではなく、主人自らであったということです。

わたくしにタクヤさんという若い男性を与えることによって、夫は自らを嫉妬と焦燥、屈辱へ
と自虐的に駆りたて、それは夫にとってこの上もない愉楽とでも言っていいのかもしれません。
反面、わたくしは(決して自負しているわけではありませんが)、少なくとも夫の愉楽の対象
として必要な女であったことに仄かに胸を打たれるわけでございます。

ええ……わたくしは、今でもそう思いたいし、そうであると信じております……。


長いお話を一方的してしまって申し訳ございません。どうか老いた女の独り言とでも受け取っ
ていただければと思います。療養所で舞子さんといっしょにいた頃、こんな話をしたことがあ
りませんでしたね。でも、どうしても主人とわたくしの関係を舞子さんに伝えたく、こうして
お手紙を書かせていただいたしだいです。

いつか東京に出かける機会があれば、ぜひ、舞子さんにお会いできればと思っております……。


平成三十年七月×日  玉木 ナオミ
                            


追伸……

玉木リョウキチ……この名前を舞子さんはよくご存じのはずです……。
あなたと主人が過去にどんな関係であったのか、今さらわたくしがここで語る必要はございま
せんね。なぜなら、あの一枚の写真に写っていた若い女は、まぎれもなく舞子さんご自身でし
たから……。


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