神谷今日子(45)-15
幸い酒は飲んでいなかったため、俺は車で今日子を近くまで送ってやった。
「また会えるかな」
俺史上最高クラスの快感を味わえた、四十五歳の熟れきったエロボディ。叶うならば今日子の六代目不倫相手に任命して貰いたいところと、車中で俺は切り出した。
「ん〜、それはダメ」
「えっ!? どうして……」
「亮介くんとのエッチは、ハメ撮りして貰うのが目的だったから。予定通りバッチリ撮れたし、ズルズル引っ張るのは好きじゃないから」
割り切った物言いだった。
「何だかんだで、疲れちゃうのよね。年齢的にも、余計疲れやすくなってるし」
ぶっ続け狂乱セックスの疲れはあまり残っていなさそうな顔で、今日子は言った。
俺がどう反論しようにも、崩せそうにない確固とした自我を窺わせる表情だった。
慢心が幾らか膨張していた俺は、気恥ずかしくなった。
俺とヤッた人妻は大抵メロメロになって、継続した付き合いが持てるセフレ化する。そんな自信を打ち壊された思いだった。
思いのままにならない女ほど、いい女に感じられる。
今日子はこれまで会った中で、そしてセックスした中で、最高級のいい女に思えた。
いい女の気持ちを尊重しないで、男が名乗れるか。
「そっか。了解。いい思い出貰ったと思って諦めるか」
ここでいいと今日子が言って、俺は車を道脇に停めた。
手を振って夜の帳に消えていく今日子を見送り、俺は大きな魚を釣り逃したような気分に襲われていた。
格好いい台詞吐いちまったけど、泣いてすがってセフレにしてくれって頼み込んでみてもよかったんじゃねえのか──もう一人の俺がしきりと言い立てた。
部屋にカメラ仕込んで盗撮映像を残しておき、夫に見せるとか脅したら承知したかも……そんな邪な考えまでが頭をよぎったが、全ては後の祭りである。
きっちり「依頼」をこなし、ご要望通り綺麗さっぱり後に引かない別れ方に応じるスマートな色男を演じたからには、今日子の記憶にも色男として残っておくまでだ。
甘くもあり、ほろ苦くもあるような妙な感傷が、かすかな疼痛となって全身を走った。
──明日はバイト休んで昼酒喰らってゴロゴロするか。
何故か俺は初恋が破れたときの切なくやりきれない気分を思い起こし、眼頭が熱くなった。
ハメ撮り志願お受けします 〜了〜