真夏の夜=2人っきりの夜(前編)-2
アタシ達の勉強会は三泊四日の日程で進む。 最初の日は着いた途端に勉強スタート、という非情なまでのスパルタぶりだった。
が、次の日は別荘の目の前に広がる砂浜&海で思う存分楽しんで良いらしい。母さんめ、わかってるじゃん。
で、次の日……つまりは今日。アタシ達は海水浴を楽しむ事になったのだ。
ここに更衣室なんてものは存在しない。なんせ、一応砂浜も『母さん所有』になっているからだ。一体、いくら出したんだ?
だから、家の中で着替える事になる。 着替えるのが早い男達の歓声がドア越しに聞こえてくる。
「さぁ、着替え完了。行くわよ!!」
麻衣がいち早く着替えて、出ていった。
「麻衣のビキニ……生地が、なんか少なくなかった?」
「あぁ、これで孝之を悩殺する…って、水着買いに行った時に言ってた」
やっぱり、孝之と付き合いだして性格変わったよな、麻衣は。
外からは麻衣と男達の会話が聞こえ………。
『『『おぉ〜〜〜』』』』
………………。
『フフッ、どお?』
『麻衣、俺の為に……』
『い、良いんじゃないッスか』
『……………』
『あら、太田くんったら、鼻の下…伸びてるわよ』
『し、白木さん!?』
な、なぁんだとぉ!!??
我を忘れて、カーテンを引きちぎらんばかりに引っ張り、窓を開けた。
「憲!!どういう事だぁ!?」
アタシ以外の女の水着姿を見て、現を抜かすなんて、許せるわけがない。
が、返事の代わりにアタシを見た憲は孝之と高坂を蹴っ飛ばし、顔を砂地に埋めさせた。麻衣はと言うと、心底面白そうにしている。
それがまたアタシの怒りを誘う。
「麻衣、何がそんなにおかしい!?憲、何でアタシを見ないんだ!?」
「し、白雪……そのな、とても言いにくいんだが……」
もがく二人を押さえつけながら、憲は視線を外して、本当に言いにくそうに話し出した。
ま、まさか……麻衣が良いとか、言い出すんじゃないだろうな………。
そんなの、絶対やだ!!
「あ、アタシは別れないからな!!」
「……へ?」
「白雪、勘違いしてる所、悪いけど……上の水着、無いわよ」
………………あ。
「キャア!」
まさか、そんな……馬鹿な。あぁ、だから憲は孝之達を倒してた訳か。だから麻衣は面白そうにしてた訳か。
うぅ…………。
真っ赤になってうずくまったアタシを母さんと愛里が見る。二人の視線がアタシを射して、痛かった。
「なぁ、泳がないのか?」
「良いんだ。アタシに構わず、楽しんでくればいい」
結局、アタシは恥ずかしさの余りに家に引きこもった。 せっかく買ったのにな、この水着。
アタシの好きな空色をしたビキニはTシャツの下に隠れている。アタシの横で、同じ様にTシャツとトランクスっぽい水着を着た憲が座っている。
「さっきの事なら、大丈夫だって。独も孝之も見てないって……多分」
「多分だろ……。それに、今更どんな顔して行けば良いんだ?」
「普通にしてりゃいいだろ」
「嫉妬に狂って上半身裸で窓から身を乗り出して、挙げ句に勘違いして大声で叫んだアタシが、普通の顔してみんなの前に水着姿で出ていけると思う?」
そんなタフな神経をアタシは持ち合わせてない。
あんな恥ずかしい事をして、人前になんて出るもんじゃない。