人生最初のオナニー-2
……そういえば、あの子はどこ行ったんだろう?
もう機械が開いているってことは、もう終わったってことなのだろうか。
「あの……え……?」
異変を感じたぼくは一度タンを切るように喉を鳴らしてみて、もう一度声を出してみる。
「あー。……なんで?」
ぼくの喉が響かせるその声色はぼくの物じゃなかった。
なんだか高くてか細くて、まるで女の子みたいな声だ。
ぼくはハッとして、恐る恐る手を自分の股へと持ってくる。
手を股の少し上を通してみると、手にもアソコにも触れる感触がなかった。
ぼくは慌てて、重い身体を奮い起こして身を捩りながら起き上がる。
なんだか肩が重く感じる。肩こりじゃないと思うけど。
だけどその理由がすぐに分かった。
決して肉付きがいいわけでも、筋肉が盛り上がっているわけじゃない、文字通りに平たいぼくの胸板が大きく膨らんでいたのだ。
フルフルとぼくの目の前で揺れる胸をそっと手で触れてみる。
手を包み込む柔らかい感触と温もりが手に伝わって、それと同時に胸から手が触れたという信号が頭に届いた。
この胸はぼくの一部だ。
そうすると、ぼくの下半身はどうなっているんだ?
元々薄い陰毛の向こうに、あのそびえ立つ男性の象徴はなかった。
代わりにワレメが入っていた。幼稚園の頃のプールの時間で見た、女の子のような股だ。
「……うそ……本当に……?」
今のほくは女の子になれた嬉しさよりも怖さが勝っていた。
まるで誰か別の女性の身体に、ぼくの脳を移植したような、そんなSFじみた状況にすんなりと理解できなかった。
ぼくは冷や汗をかきつつ、機械から這い出ると、そのまま小走りであの鏡張りのシャワー室に入った。
そこにはぼくがいた。ううん、ぼくによく似た裸の女の子が鏡に映っていた。
顔は少し幼い感じはあるけどぼくの面影があった。だけど心なしか肌がきめ細かくなって、唇がぷっくりと艶やかになり、他のパーツも女性っぽくなっている。
全体的に四角いシルエットだった筋肉質の身体が、丸みを帯びて、膨らんだ胸と引き締まった腰、桃のような尻がメリハリある身体を象っている。
腕と脚は前よりも細くなって、そのせいか長くなっているようにも感じて、スラッとした女性らしい指で腕をさすると、白い肌の上を滑り降りてゆく。
そしてなにより、ぼくの下半身にあったペニスが跡形もなくなくなっていた。その場で足を広げて見ても、そこには女の子のものがあるだけで、そもそもペニスなんて無かったかのようだ。
だけど細かく自分の身体を眺めていくうちに、不思議とこれが紛れもない自分な身体なんだと思うようになっていた。
それは男女の肉体とは別の、個人が各々に持つ特徴で、それが前のほくの身体と完全に一致していたからだ。
ぼくの中で恐怖や不安が消えると、そこに残ったのは正真正銘の女の子になれたという喜びだった。
可愛い服を着て、街に出て、美味しいスイーツを食べたり、ひょっとしたら可愛いからナンパされるかも……。
色々と妄想を膨らまして、ふとぼくは鏡越しに自分の下半身を眺めた。
男性の身体から女性の身体になった最たる部分。
これからは一生付き合うこととなるその場所を見て、ぼくの心に何かざわつきを感じた。
今までぼくは女性の裸を見て興奮して、それを鎮めようと精を放ったことがある。
ぼくはそれを男性としての本能なのだろうと思って、その醜い部分をムリヤリ言い聞かす様に認めてきた。
だけど、なんでぼくの身体を見てこんなに胸が高鳴るんだろう。こんなに熱くなってくるんだろう。
その答えが分からないまま、ぼくは最初のオナニーをはじめようとした。