セイン・アルバート(前編)-8
風呂も上がりしっかり汗も洗い流した後はシイナが来るのを待ちながら報告書を書き上げる。
やはりしっかり訓練した後の風呂は気持ちが良い。
せっかくシャリィが精の付く料理を作ってくれているのならもっと動かないと。
状況に甘えてばかりいると精のつく料理な分、カロリーもしっかりだから太ってしまいそうだ。
そんな事を考え、今日の報告書を仕上げた後はのんびりと読書をして時間を過ごす。
普段なら時間があればクラリスに会いにいったり、寮の人達とゲームしたりして時間を過ごすが今日は予定があるからな。
読書をはじめてしばらくすると部屋の扉がノックされる。
「おう。入っていいぞ」
「失礼、します・・・」
予想通り入ってきたのはシイナだ。
広い作りとはいえ一人部屋の寮なので椅子が一つしかないので彼女に座らせる。
オレはベッドに腰掛けて向き合う形になる。
シイナの服装は紺のジャージだった。
色気も何もないが男も一緒に暮らす寮生活なら仕方ないだろう。
しかし服装に色気はないがシイナは風呂上がりなのか肌の血色が良い。
首元から見える肌がいつもより瑞々しいし、髪も乾かしてはあるがしっとりと垂れていて女性の風呂上がりの姿というだけでも色気は十分。
むしろ風呂上がりの女性のジャージ姿なんて普段は見る機会も少ないし、生活感を感じられてコレはコレで・・・。
・・・って、何を考えてるんだオレは!?
少し落ち着かないと・・・。
「えっと・・・相談があるって事だったよな?」
「は、はい・・・。とても、言い出しづらいのですが・・・」
普段から口数が多い方でもないが、告げる事はしっかり告げられるのがシイナだ。
その彼女が口ごもるなんて・・・よっぽどの相談か。
相談に乗る立場なんてあまり経験もないが、そこで後退りしても相談しにくいだろう。
落ち着いて話しやすいタイミングで言ってくれと声をかけて、可能な限りドッシリと構える。
誠意を持って対応しようと覚悟を決めた所で、彼女が口にしたのは予想もできない言葉だった。
「あの・・・。わ、私を抱いて貰えないでしょうか・・・!?」
「・・・はっ!?」
シイナの口からそんな言葉が出るとは思っていなかったので思いっきり虚を突かれてしまう。
正直に言うと、彼女にはこういった話しは無縁だと思っていた。
別に魅力がないとかじゃなくて、そんな余裕も無さそうだなと勝手に思い込んでいたので本当に虚を突かれてしまったというか。
いやそもそも後輩の女性騎士からそんな相談を受けるなんて思いもしない。
・・・何かしら、理由があるはず・・・だよな?
「その・・・アレスとシスターが行為に及んでいるのを知ってるのは私だけじゃないんです」
「そりゃ・・・シイナが気がつくなら向かい側の部屋の人も気がつくよな」
「それで最近は・・・仲良くしていただいているシスターとも男性との話しで盛り上がったりするのですが私には経験なく・・・」
「だ、だからってオレ相手に抱かれて良いのか・・・?こういうのは急いても仕方ないと思うが・・・」
「私も、興味があるんです。隊長は恋人もいて経験があり人も良いですし、後腐れが無いと思ったのですが・・・」
「後腐れありまくりだと思うが・・・」
話しの内容からして恋人が欲しいとかなりたいとかいう流れではないのだろう。
とりあえず経験だけしてみたいという正に若気の至りまっしぐらな相談だ。
そこで経験はありそうで、シイナから見て人も良さそうなオレに白羽の矢が立ったと。
こんな相談をされるとは思っていなかったので、対応に困る。
けども晩飯時にも思ったが、最近はオレも精力を持て余している状況だ。
入浴する前に身体を動かして気分転換したつもりだが・・・下半身は節操なしに反応してしまう。
そもそもシイナが悪いのだ。
こんな状況で、しかも風呂上がりの状況で男の部屋に来るもんだからどうしても色気に当てられてしまう。
「ダメ・・・でしょうか・・・?」
「・・・・・・・・・」
ここでオレは・・・ダメ、と即答する事ができなかった。
彼女であるクラリスが近くにいないとはいえ、誠意を見せるならしっかりと断る場面だったというのに。
あと、お願いだから潤んだ瞳で顔をのぞき込みにこないでくれ。
とても可愛らしく、抱きしめたいと思ってしまう。
「・・・お前が満足するなら、今日だけ相手してやるよ」
「あ・・・。あ、ありがとうございます・・・!」
挙げ句、オレは最低な返事をしてしまう。
まるで自分は仕方なく対応してやっていると言わんばかりの返答だ。
一度流されてしまおうと考えたら、オレの下半身はさっきまでよりも激しく興奮しているというのに。
それを誤魔化して、一切の責任感も追わないままシイナを抱こうとしている。
・・・最低すぎるな、オレは。