満里子-3
「何で此処へ来たのよ」
「来てはいけないのかい?」
「満里ちゃんの所に行けばいいじゃないの」
「それはそれ、これはこれだもの」
「何よ、それ」
「つまり偶には君の顔も見たくなるという意味さ」
「それなら何故今までずっと来なかったのよ」
「仕事が忙しくて」
「そんなの嘘」
「いや」
「いや、何?」
「君たち喧嘩でもしたのかい?」
「満里ちゃんと?」
「ああ」
「どうして?」
「いや、ただ何となく」
「私のお店に行くなと言われたんでしょう」
「まあそうなんだけど」
「それで来なかったんでしょう」
「いや、来なかったのは忙しかったからなんだ」
「それじゃ満里ちゃんの店には何回行ったの?」
「さあ」
「惚けても駄目」
「いいじゃないか。こうして現に来たんだから」
優輝が初めて満里子と外でデートした直後に満里子は店を変わった。デートと言ってもぶらぶら歩いて服を1着買ってやり、その後食事しただけである。優輝は当然食事の後一緒に店に行くつもりでいたが、「それはもう直ぐお店を変わるから、それからにして頂戴。今日はこのまま帰って」と満里子に言われた。以来優輝がミイの店に行ったのはこれが初めてであった。
ミイとは長い付き合いだったがホステスと客の関係以上のことは何もなかったし、双方それ以上のことを望んではいなかったから、ミイの友人である満里子と優輝が親しくなっても特に問題になることは無い筈だった。しかし友人にさらわれてみて初めてミイは自分の気持ちに気づいたのかも知れないし、或いは優輝の方が気づかなかっただけでミイは前から優輝と親しくなりたかったのかも知れない。ミイは優輝を詰問するように言葉を連ねたがいつの間にか目は潤んできて、「惚けても駄目」と言った時にはボロボロと涙がこぼれていた。見かねて優輝が自分のハンカチを渡そうとするとその手を振り払ってミイはトイレにたち、長らく戻らなかった。
これはもう帰った方がよさそうだと思い始めた頃にミイは戻ってきたが、座ってキッと睨み付けるように優輝を見た瞬間またしても涙が浮かんできて、その後は何も言わずにただ優輝の隣で泣いていた。声は出さないものの、ハンカチで目を覆い、肩はしゃくり上げているのだから誰が見ても泣いていることは分かる。お客も店のスタッフも皆二人に注目していた。優輝は身の置き所のない思いをしながら1人で水割りを作って飲んでいた。壁際の席で通路側をミイに塞がれていたから、泣いているミイを置いて帰る訳にも行かなかったのである。
満里子とは2度目のデートの時に初めて同伴した。同伴というのは一緒に店に行くことである。そしてその日は閉店まで満里子の店で飲み、その後一緒に深夜スナックに行ってカラオケをした。満里子はかなり酔っていて歌が下手なのにマイクを放さず歌い続けた。流しのギターが来るとマネージャーと呼ばれている店長は店の奥にスポット・ライトを当て、そこでギターの演奏をさせた。満里子はその隣に椅子を持っていってそこに座って歌った。優輝にも此処へ来いと手招きした。優輝がそこへ行くと優輝に座らせ、満里子は優輝の膝の上に座った。満里子は柔らかいシルクのようなワンピースを着ていたが、優輝は自分の腿にプックリと膨らんだ満里子の性器が当たるのを感じた。その感じが優輝に強烈な性的欲望を抱かせた。まだ歌いたがっている満里子を促して店を出るとそのままホテル街の方に歩いていき、入ろうとした。満里子は逆らいもせず当然のように着いてきて二人は初めて体の関係を持ったのである。
ずっと後になって「あの時満里子の性器が僕の腿に当たってね、それが僕の気持ちに火を付けた。やりたくて我慢出来なくなったんだ」と言ったことがある。すると満里子も「当たっているのは知っていた、私もやりたくなって我慢出来なかった。だから素直にホテルに入ったでしょ」と言った。
仕事が終わったら直ぐ帰ってよと言われたその日、優輝が仕事から帰ると満里子は網タイツを着ていた。いや、タイツと言ったら下半身だけになるから、これは何と言うのだろう。全身タイツとでも言うのだろうか。粗い編み目で肌が良く見えるから下着は全く身につけていないことが一目で分かった。乳首は両方とも編み目からぽっこり出ていた。非常に弾力のあるネットのようで、編み目の1本1本が肌に少し食い込んでいる。セクシーな満里子が余計セクシーに見えた。