亜美-44
「でもね、それだけじゃつまらないでしょう?」
「いや、それだけでも大変な勇気がいると思うけど」
「ええ。でもどうせ隠れるのならバイブもつけちゃおう、と思って」
「凄いですね」
「それでね、これは完全防水なの」
「ということは、これを身につけたまま海に入れるということですか?」
「ええ。スイッチも入れられる」
「それは凄い」
「私、家のお風呂でこれを試したの。そうしたら感じすぎておしっこしちゃったのよ」
「うーむ」
「海でもきっとしてしまうわ」
「そのときは亜美さんのそこに口を付けて亜美さんのおしっこを飲んでみたい」
「あら、それじゃ私がMでなくて、貴方がMになってしまう」
「どっちがSでMかなんてどうでもいいんです」
「そうね」
「でもね、バイブが付いているお陰でいいこともあるのよ」
「ほう」
「この水着幅が狭いから動くとずれたりして、大事なところが出ちゃうの。私は出てもいいけど」
「よくありませんよ」
「でね、バイブのお陰でずれないの」
「なるほど」
しかし日本の海でそんな水着姿をするわけにはいかないから、二人は結局高級なホテルのプールに行った。そんなに高いのかよと言いたくなるほど高価な料金だから、子供などはいない。尤も宿泊客は無料なのかもしれない、外人の子供は何人かいた。大人はすべてカップルで、半分以上が外人だった。亜美の来ている紐のような水着はさすがにいないけれども、海では見かけないような極端に小さいビキニを来た外人女性が多かった。外人も旅の恥は掻き捨てでそんな水着を着るのか、それとも本国でもそんな水着なのかは知らない。亜美の水着と比較するからおとなしく見えてしまうが、その面積の小さいことはやはり目を奪う。そんな水着の外人が何人かはいた。面白いことに彼女たちの連れの男が、もちろん外人だが、亜美の水着を見て喜んでいる者もいるけれども、面白くなさそうな顔をしている者もいる。自分の女が最も目立たないといけないということなのだろう。亜美の水着はもう太めの絆創膏と似たり寄ったりの面積しかないから股間のタトゥーも殆ど全部見えている。外人にはわからないだろうが、此処には日本人もいる。隷女なんていうタトゥーを見られて平気なのだから、これはもう本人が言う通り露出趣味が相当に強いと言うほかない。誠司は恥ずかしがったら亜美とは付き合っていけないことを承知しているので、都合の悪いことは見えないものと決めつけていた。それにSM雑誌の編集部員なのだから、こんなことで怖気づいたりしてはいけないのだと、自分を鼓舞していた。
「あのイタリア人らしい顔の男がさっきから亜美さんを見ていますよ」
「そう?」
「いや、見ているのは全員見ていますけど、、あの男は不快そうな顔つきで見ている」
「道徳的なのかしら」
「違いますよ。連れの女性を見てください」
「あらあ、素敵な女性ね」
「そうです。それが亜美さんのおかげで全然注目を集められない」
「私の勝ち?」
「そうです。同じ水着を着たって亜美さんの方が全然勝ってる」
「有難う」
「ところで折角だからスイッチを入れてもいいですか?」
「いいわよ。忘れてるのかと思った」
「忘れてませんよ。入れますよ」
「はい。あっ」
「それじゃ僕はジュースを買ってきますからね」
「駄目」
誠司は驚くほど強い力で左の手首をつかまれた。爪が食い込んで思わず顔をしかめたが、亜美は左手で自分の口を押えて声を出さないようにしている。なるほど、これでは離れるわけにいかないなと思い、ビーチチェアにまた腰を下ろした。誠司がチェアに寝そべると、隣のチェアにあおむけに寝ていた亜美が体を横に向けて誠司の右手をつかんだ。え?真逆こんな衆人環視のところで上に乗っかって来たりはしないだろうなと思っていたら、乗っかっては来なかった。しかし、誠司の左肩口にがぶりと咬みついた。思わずゲッと声を漏らしたが、手で押さえても声が漏れてしまうから咬みついたのだということが分かった。だから我慢していたが、遠慮のない咬み方で、今度は誠司が必死になって声を漏らさないように我慢する羽目になった。失神しそうなほど痛かったが、突然力が抜けて、見ると亜美は失神していた。慌ててスイッチを切ったが、誠司の肩口からは血が流れていた。滲み出しているのではなく、流れ出ていた。亜美の体にバスタオルをかけてやって「救急」と書いてあるところに行き、治療してもらった。