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亜美
【SM 官能小説】

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亜美-45

救急所はドリンク類を販売しているところの隣で、高いベンチのような安手のテーブルが1つあるだけの殺風景なところだった。白衣を着た女性が座っていたが、若いというよりも子供のように見えた。すぐに誠司の傷に気付いたから「そこに座ってください」と言うとテーブルを回って誠司の横に来た。顔をくっつけるようにして見ていたと思ったら、「縫う必要はなさそうですね」という有難い診断が下された。消毒液は頭にズキューンとくるような痛みがあり、声を出さずにこらえたものの、一瞬気が遠くなるような感じがした。
「どうしたんですか」と言われたのだが、何かしゃべっているらしいというだけで、気が遠くなりかけた頭には入ってこなかった。
「どうしたんですか?」と2度目に聞いてきたところでやっと理解が出来た。
「いやあ、その薬品が痛くて」
「ああ、そうじゃなくて、どうしてその傷が出来たんですか?」
「連れの女性に咬まれました」と本当のことを言った。適当なことを言っても歯型であることは一目瞭然なのだから隠しようがないのである。
「連れの女性?」
「はい」
看護婦はそれ以上何も言わず、しかし、非常に怖い顔を作って包帯を巻いている。口などは、唇から血が出てくるのではないかと思うほど強く噛みしめていた。子供ような若さだから、きっと潔癖なのだろう。暴力を振るうので逆襲されたとでも思ったか、それともいやらしい遊びがすぎて傷になったと思ったのか。どちらにしても若い潔癖な女性には許せない男に思えたことだろう。
しかし、包帯を巻き終わると彼女はすぐに奥のカーテンの中に入り、盛大に笑い始めた。怖い顔をしていたのは笑いをこらえるためだったのか。まあ、笑われて当然だな、と思いながら亜美のところに戻った。

目をつぶっているように見えた亜美は、薄眼で見ていたらしい。誠司の包帯を見て驚いたように上体を起こした。
「どうしたの?」
「亜美さんに咬まれました」
「え?私?本当?」
「はい」
「そんな酷いの?」
「まあ、縫うほどではないそうです。大丈夫です」
「驚いた。ごめんなさい。私全然覚えていないの」
「よっぽど感じたようですね」
「ええ、いまも感じてる」
「それじゃもう引き揚げましょうか」
「ええ、包帯姿でプールにいるわけにはいかないものね」
「そうですね」
「ここで部屋をとって休む?」
「いや、そんな無駄な金を使わないで戻りましょう」
「ちょっと前に予想以上の収入があったから、贅沢してもいいのよ」
「配当金ですか?」
「ええ」
「まあ、亜美さんの部屋のほうが落ち着くから」
「まあ嬉しいことを言ってくれる」
「だってもう何度亜美さんの部屋に行った事か」
「そうね、早いものね」
「ええ」
「そろそろ考えないといけないわね」
「何をですか」
「二人のこと」
誠司は傷ついた肩口にまた激しい痛みを感じて顔をしかめた。
「別れるとか、終わりにしようとか、私のことはもう忘れてね、とかいったそんな話ですか?」
「なにそれ。全部同じことを並べてるんじゃないの」
「あ、まあ、そうですね」
「私が考えてることはその反対よ」
「つまり、別れない、終わりにはしない、忘れてくれるな、そういうことですか?」
「ちょっと違う」
「すると?」
「まあ、帰ってからゆっくり話しましょう」

このマンションは街中の一等地ではないが、つくりは超豪華で、おそらく億ションではないかと思う。亜美は嘘をついたり隠し事をしたりということは全くしないが、自分のことを自ら話すようなタイプではなく、聞かれたら答えるという感じで、自分を良く知ってほしいという欲求はあまりないのかもしれない。誠司の方も遠慮してあまりあれこれ聞かないものだから、結局誠司は今でも亜美のことをあまり詳しくは知らないのである。



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