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君と僕との狂騒曲
【ショタ 官能小説】

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君と僕との狂騒曲-5


 僕は二針縫い、包帯を巻き付けた上に三角巾で左手を吊ってキャンプに戻った。

 医者から言われた「一生消えない傷」という、よく考えればなんて事はないんだけど、なんか「とんでもない事」をしてしまったような罪悪感に襲われた。

 今、僕の身体には「一生消えない傷」がどのくらいあるのか数え切れない。(しかも大部分は自分自身で刻んだ傷なんだから、笑っちゃうよね。)

 で、そのキャンプだけど、僕は怪我人だから休んでていいと言われるものだと思っていた。その数分後、僕は三角巾で吊った左手の脇に薪を挟んで森の中を歩いていた。傷は最初のショックを終えて、ズキズキと猛烈に痛み出していた。もともと泣き虫な僕だけど、その時ばかりは大泣きした。無理もないけれど。

 そうやって、山を下りてきた時、暗い森の中に君の瞳が光った。僕と同じように煤と土にまみれ、そこいら中に小さなひっかき傷が見える。

「しんどいね」

「うん、まったくね」

 僕は薄笑いを何とか浮かべることに成功しただろうか。
 夏でも深い森は冷たい。寒いんじゃない、冷たいんだ。僕は足下の苔や湿った枯れ葉に気をつけながら、先を急いだ。僕の後ろから、さくさくと君の足音が続く。心の中に、何か暖かい物が浮かんだ。
               *
 僕の知る限り、君の家庭は過剰に厳格だった。大手百貨店の部長職にあった君の父親が君に求めたもの、それは「ミスをしない事」じゃなかったか。そんな怖ろしいことを君が強要させられていた事を示す、たくさんのエピソードがある。君の母親の、どことなく怯えているような態度からも想像に難くない。なかには誰から見ても非常識な判断もあった。 今でなら常識になっているコンピューターのエラーを信じないみたいにね。間違いのない、完璧な規律に縛られた生活。ボーイスカウトだって、カブスカウトに入隊を決めた時点で、「やるのなら完璧にやりきる事」という最高裁判所の判決が下ったのだろう。

 ある意味、僕の自由奔放な生活スタイルを、もしかしたら君はうらやんでいたのかもしれない。僕の家族はほとんど崩壊していて決して幸福なものじゃなかったけど、もともと父親以外はほとんど自分の好きなように生きていた。それに比べて、まるでコンクリートのような君の家族というか、家族制度は、牢獄に近い陰惨な影を落としていた。それは僕の直感だけど、僕の直感が狂っていた事はほとんどないんだ。

 君は多分、拠り所とする「絶対に」変わらない世界へ歩いて行く道を歩まねばならなかった。ただ、僕のおかげで君の軌道は破滅的なほど狂ってしまった。僕は君に悪いことを伝えたのか、良いことを伝えたのか、今ではわからない。

 とにかく君と僕は初級の苦しくつらい年月を頑張り通し(大げさに思うかも知れないけれど、僕らには体感で三年か四年ぐらい)晴れて二級に昇進した。

 つまり、僕らは一緒に同じ中学校に進学したというわけ。
               *
 市立第二中学校は僕の住む団地の目の前にあった。君や大嘘君、バッカーノと小象で一緒にめでたく新入生になったと同時に、僕らは5人とも二級へ昇進したことを祝った。シャンパンじゃなくてミリンダのレモンライムだったけど、これから大きく変わるだろう世界にくすぐったい期待と止めどもない不安を覚えていた。みんな極めつけの純粋無垢な青春のまっただ中。ザッツライ。

 そもそもこの街は、元々が山林で、国土開発計画のひとつとして作られた街であり、日本一緑にあふれたベッドタウンだ。僕が覚えている泉の数だけでも5つはあるだろう。「森林公園」には一抱えも二抱えもある巨木が密集して林立し、カソリック教会の前には見事な大樹による並木道があった。誘致された企業も多く、自動車会社や日本を代表するフィルム会社があったので、裕福この上なく、しかも浅川の川沿いには豊かな田園地帯があった。「ものみの塔」の描く未来より遥かに健全な、素晴らしい街。

 二中はかなり大きな中学校で、うろ覚えだが10クラス以上で、各クラス50名以上のマンモス校だ。これだけ大きいと色々な面白い人種が生息するもので、僕もその変種のひとりだった。とても珍しいことに、三年間君と僕は同じクラスで勉強することになる。といっても、君は勉強するけれど僕は小学校と変わらず勉強しなかった、いや、それはちょっと違うかな?僕はノートを取らないし、必要があれば教科書の余白を埋めた。授業そのものに集中する。解らない時には容赦なく教師に質問した。それから、これも不思議なことだが、僕には忘れるという能力がない。人が「忘れた」というのは、全部嘘だと思い込んでいた。自分が忘れないから。


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