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君と僕との狂騒曲
【ショタ 官能小説】

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君と僕との狂騒曲-4


 ボーイスカウトの初級にはとんでもない試練が待っていた。

 とにかくほとんどの時間は薪拾いに費やされる。布バケツで水場から水を何回も汲んでくるのもそのひとつ。かなりタイトなスケジュールのボーイスカウト活動(ミニ・ハイクとか通信訓練、その他いろいろ)、食事の確認のため本部に持って行く晩餐のタイム・レース。休む時間はまったくなく、座り込んでいるだけでも見つかれば「だらけている」と言われ、新たなきつい仕事を与えられる。ボーイスカウトをよく思ってない人々は「軍国主義」とか言うけれど、あながち外れでもない。実際、薪を拾いながら森の中で泣いた事なんて数え切れない。テントの中で囚人のように唯一の休みである睡眠も、「非常招集」で午前一時に叩き起こされる。小学校6年生の甘ったれた日常なんてあっという間にふっとんでしまう。
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 しかし、ただ仕事がきついだけ、と思ったら大間違い。薪拾いひとつにしても、まず針葉樹はだめ。油脂が含まれているため、危険だから。そしてかまどがどんな状態であるか、考えながら集めなくてはならない。

 雨模様で熾きもなく、すっからかんの時は細くて燃えやすいものを、そして徐々に太いものを、やがてもっと太いものを集めてゆく。一度、まるまる一本の立ち枯れた木を持って行った事がある。(僕は結構力持ちだった)そんなとき班長や副長はよく持ってきた偉い偉いと褒めてくれる。で、もっと驚かすようなものを持ってこようと思うのだ。

 反面、テントを建て終わった時に見に来て、ふんっと鼻で笑われ親綱をペグごと蹴り倒してしまい、建て直しをさせたりする。場合によっては「テントの対角線上に張ればいいんだ」と教えてくれる。

 まさに飴と鞭、そして教育。今から冷静に考えると僅か14歳なのだが。その先輩はその先輩に、その先輩はと言うように伝えられて行く。野外生活には「技術」が必要なことを現場で叩き込まれるというわけだ。実際にその通りだった。「真っ直ぐで加工が便利」な木を見つけてきた奴は、その「漆」にやられ、お岩さんみたいなボコボコの顔になって勉強する羽目になると言うわけ。
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 ボーイスカウトの初級で体得する技術では「伐採」というのがある。

 文字通り野外生活のスペースを確保するために、樹木を鋸や斧で、雑草は鎌を使って小径やスクエアを整備する。

 ある日僕はちょうど中間みたいな細い木を見つけ、道具を持ち変えるのも面倒なので、左手で木を握り、右手の鎌で断ち切ろうとした。しかし、生の細い木はその薄い皮で鎌を滑らせて僕の左手の親指の背中を走り、ちょうど静脈に沿うように切れた指からは、ちょっと想像できないほど出血した。

 パニック。僕はオロオロしながら傷口を押さえ、本部へ走った。本部はシニア・スカウトの隊付や隊長達がくつろいで煙草を吸っていた。
 僕はどもりながら、「あの、切っちゃいました。あの」と言って傷口を抑えていた右手を離し、先輩達に見せた。吹き出す鮮血。

 さて、それからが素晴らしい。後年僕が「救急章」を授与されるきっかけにもなるその小さな事件は、とても手際が良かった。なにしろ先輩達は特に驚く風もなく、水で洗いオキシフルで消毒し、血止めの黄色いパウダーを撒き、ネッカチーフを首から外し、魔術のように包帯に折って、瞬くほどの速度で簡単な処置をした。

 救急隊員の心得。「その状態を維持する」ってやつだ。「治療」をしてはいけない。それは医者の仕事だから。そして簡潔な言葉で状況を説明し、行った処置を申告する。以上。

 僕は先輩と一緒に、ゆっくりと歩いて清里の「聖ルカ病院」に向かった。


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