君と僕との狂騒曲-3
カブスカウトを卒業し、(実際には「追い出す」って言うんだけど)晴れて「誓いの言葉」を十字架の下で宣誓した僕らは「初級」のワッペンをつけ、カーキ色の素晴らしい制服を身に纏い、十字架のマークがついた緑と黄色のネッカチーフを締めて、翼のシルエットの「スワロー班」に所属する事になる。君と僕が宣誓をした、そのプロテスタントの教会から僕らの物語は始まる。
君は素晴らしいキューティクルが輝くマッシュルームカットで、すごく睫毛の長い黒目がちな涼しい目と薄い唇、ミルクのような肌の白さ、華奢なのに少しも骨っぽくない腕や足が印象的な少年だった。輝くような清潔感もね。僕はと言えば君より3センチぐらい背が高くってちょっと痩せ気味。髪はショートの女の子ぐらい長く、二重まぶたでやたら大きい瞳を持ち、君に負けないぐらい睫毛が長かった。
初めての軽いキャンプで、僕と君がお互いにとって何なのか理解するのに、そんなに時間はかからなかった。なにしろ僕たちはお互いに持ってないものをお互いに持っていたのだ。コインの裏と表のように。
「行こう」「うん」「持った?」「ああ」「難しいね」
小さな言葉の断片を風に乗せて、僕らは一緒だった。それはまるで森の小さな妖精。羽根だってあったかも知れない。
夜露の降りる夜のテントから覗き見た空は、深い群青色だった。散りばめたビーズみたいな星が浮かんでいる。
「星にも、いろいろ色があるんだ」
僕が呟くと、いつの間にかシュラフから出てきた君が僕の隣で空を見上げた。
「本当だ」錆びた金色の鎌なる月が、君の頭の上に天使の輪を光らせていた。
ひゅっと、音もなく流れ星が夜空にカミソリの切れ込みを描いた。
僕らは、ちょっと驚いて、時間を忘れた。
「願い事でもした?」
「馬鹿者」そういうと、君はまたシュラフの中に潜りこんだ。
*
君の沈着冷静な氷のような判断力に、僕の躁病じみた快楽主義。君の正確無比な計画と行動に、トリッキーなアドリブのきく軽妙な僕。月に一度は決まって床屋に行く君、邪魔になった髪の毛だけ鋏で切ってしまう長髪な僕。家では勉強ばかりしていた君、ひたすら大量に本を読みふけった僕。「礼儀」を大切にする君の家族、「自由」を大切にする僕の家族。(といっても母親だけだけど)姐を持つ君、妹を持つ僕。
僕たちふたりは、始めはよそよそしく、やがて墜落するように深く関わり合ってゆくことになる。渇きを癒す二人の天使。言い過ぎじゃないと思うよ。
*
さて、僕らの同期にはどんなやつらが居たか。といっても三人だけである。カブスカウトを卒業して、ボーイスカウトに残ったのは僅かに5人。
まず、大嘘くん。こいつの一家はとんでもないグルメだ。いつだったか会いに行ったとき、一番大きな部屋の中、一家総出で中華麺を打っていて、親父さんはラーメンの本格的なスープを作っていたといえば少しはわかるよね。とにかく初級の頃から料理については実力があった。それとちょっと。どころではない病気じみた女子の探求。進化論の権化のように「生殖とそれに関する論文」を生きていた。
もう一人はバッカーノ。こいつは兄がボーイスカウトの副隊長をやったりしている関係上、ボーイスカウトに残った。サッカー大好き少年でもあり、サッカーへの情熱と女子へのすけべ心を差し引くと大したものは残っていない。
最後にひたすら影の薄い「小象」。こいつは限りなく今のコンビニみたいなマーケット四人兄弟の末っ子。ただ虐められるために生まれてきたような、勉強はもちろん、頭も最低な男だったけど、どこか憎めないやつだった。