たらし込み-1
(1)
私は橋本奈緒、大学4年、この夏就職が決まり、ほっと一息ついたところだ。単位もあと2科目のみ、レポートを出すだけである。問題はない。
(遊ぶぞ)
体がムズムズするほど疼いた。
(伸介と過ごす……)
そのことしか頭になかった。
高木伸介とは高校時代から付き合っている。彼も就職が決まっている。
(余裕だ……)
2人とも自由な時間がたっぷりある。
大学は別だが、同じ都内、3日にあげずデートを重ねてきた。お互い初体験、高校3年の時に結ばれた。
(素敵……)
長身のイケメン。いずれ結婚するつもりでいる。
セックスは2人で高め合ってきた。4年間、求め合い、愛撫を繰り返し、感じるところも知り尽くしている。
(楽しんできた……)
ただ、彼と旅行をしたことがなかった。友達の家に泊まると言ってラブホテルに一泊したことはあるが、しょっちゅうとはいかず、それに気持ちがゆったりしない。翌朝ホテルを出る時の妙なけだるさ、外の眩しさに後ろめたさを感じて、せっかく楽しんだ夜が虚しくさえ思うことがある。
(きっと、ラブホテルだからだ……)
そう思うようになってきたのはしばらくたってからである。
華美な装飾、昂奮を煽る設備、小道具……。その時は夢中で絡み合うのだが、後になって、充実した満足感がないことに気づいた。
(2人だけで旅行がしたい)
爽やかな朝の目覚め、朝のセックスもいい。朝食を食べながら今日の予定を語り合う。
(2泊……3泊はしたい)
出来れば贅沢な旅行。卒業旅行を口実に、どこかへ行きたい。
問題はお金だ。バイトはしているが化粧品を買うので精一杯。彼も同じようなものだ。貯金する余裕はない。親にねだることもできない。来年弟が私立大に入学する。手一杯の経済状態だと思う。
(彼と思い出をつくりたい……)
思いついたのは『伯父』である。私の母の姉の夫、義理の伯父、佐山慎太郎……。
年齢は50歳、食品会社の取締役をしている。中小企業ではあるが、業績は順調だと聞いている。裕福なのはわかる。夫婦でよく海外旅行にも行っているし、車も外車に乗っている。子供がいないからさらに余裕があり、自由でもある。
その義伯父(おじ)。年齢よりやや老けて見える。中肉中背、あまりぱっとしない見た目である。性格も大人しそうで口数も少ない。どちらかという暗い印象だ。
そんな義伯父のそばに行って私はよく話をしたものだ。それは『お小遣い』。お年玉は伯母からもらうが、それとは別に義伯父もくれる。私だけにそっと、しかも伯母の倍以上の額だ。夏休みに会う時も必ず手渡してくれる。
「内緒だよ」
私は頷いてにっこり笑う。
「奈緒ちゃんはいい子だね。可愛いよ」
時には帰り際にも渡されたこともある。
(私は特別……)
義伯父は私を弟より可愛いと思っている。子供ながらにそう思っていた。
(甘えていればお小遣いをくれる)
いつか私の中で義伯父の存在も特別なものになっていった。
その義伯父の視線に『ちがった』ものを感じ始めたのは高校2年頃だっただろうか。ふとした時に、
(義伯父が見ている……)
そう感じるようになったのである。歩いていて何気なく振り返ると義伯父の視線は私の脚に注がれていた。
(私に関心がある……)
小さい頃、可愛いと言ってくれた柔和な目ではない、何かしら強さを感じる見つめ方に思えた。そう感じたのは私が大人になったということなのかもしれない。
それでも私は義伯父が来るとよく話をした。学校のこと、志望大学、将来の夢……。義伯父はみんなが集まる居間にはあまり来なかった。たいてい開け放たれた隣室で1人タバコを吸ってテレビを観ていることが多かった。わいわい騒ぐのは好きではないらしかった。私が義伯父のそばに行くのはもちろんお小遣い。話し相手になると、その報酬のように掌に小さく畳んだ1万円札が渡される。
(そう……)
その時、義伯父は私の手を握って、そっと撫でるのだ。
義伯父の視線に潜むものを確信したのは、私が伸介と結ばれてしばらく後のことである。
(男を知った私……)
体が変わり、自分を見つめる男の目を肌に感じるようになった。そう思った。
(私の体を見ている……)
視姦、という言葉は知らなかったが、私を求めている、義伯父の妄想の中に私はいる。そう感覚した。
それから4年、熟した私を義伯父は舐めるように見つめるようになった。今年のお正月、いつものように特別なお年玉をくれた。テーブルの下で私の手を握りながら、
「社会人になっても、あげるからね。奈緒ちゃんだけだよ」
そっと囁いた。
費用は義伯父から……。
卒業旅行に行きたいと内緒で甘えれば、きっとお金はくれる。だが、今回は少しまとまった金額が必要だ。20万あったら、最高だ。……
(どうしよう……)
「貸してほしい……」というには高額すぎる。ためらいに揺れた。後ろめたさもある。でも、義伯父しかいない。……
秘策を考えた。義伯父の『気持ち』を揺さぶろう。……私を見つめるあのねっとりした『視線』を利用しようと思ったのである。