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たらし込み
【その他 官能小説】

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たらし込み-2

(2)


 義伯父に電話をかけたのは翌日、あえて会社に電話した。伯母には何も知られたくない。かかわりを知られては困る計画であった。

「奈緒ちゃん?どうしたの?珍しいね」
「ごめんなさい。会社に電話して」
「いや、かまわないよ。奈緒ちゃんならいつでもOKだよ」
案の定、でれでれである。
「相談が、あるの……」
「なんだろう」
「義伯父さん、2人で会えないかしら……」
義伯父の言葉が途切れた。
「いいけど……何か他に言えない話かな?」
「そういうわけじゃないけど、義伯父さんにいろいろ教えてほしいことがあって、まだ未定のことだけど、将来のことだから、2人だけでって思って……」
もったいぶった話し方になった。
「わかった。いつがいい?奈緒ちゃんに合わせるよ」
義伯父の言葉に真剣みがうかがえた。

 日時の都合を伝え、念を押した。
「あんまり、目立つところだと困るの……」
「うん、わかった。静かなところ……」
義伯父はそこで言葉を切って、
「いい店はないけど、任せてくれる?」
「うん……」
その語調から、
(引っ掛かった……)
エサに食いついてきた……。手ごたえを感じた。


 どうするか……考えたのは、いわゆる『色仕掛け』であった。
大胆だとは思いながら、ある程度きわどくする必要がある。しかも、あまり露骨ではいけない。少しずつ、じらすように……。

 私の家と義伯父の家は車で1時間ほどの距離である。待ち合わせたのはちょうど中間あたりの駅前。義伯父が予約したのは個室のある居酒屋である。

「奈緒ちゃん、飲めるんだよね?お正月に飲んでたもんね」
「あまり強くないけど」
乾杯する義伯父は満面の笑みであった。
「ほんとに大人っぽくなったね」
その目は私の胸をちらちらとひっきりなしに掠めていく。胸を強調するようにわざとぴったりしたTシャツを着てきたのだ。下はジーパン。この日は初日、ほどほどがいい。

「あたし、近い将来、起業したいの」
「起業?ほう、それはすごいな。まだ若いのに」
「いま、どんな業種がいいかしら」
「相談って、そういうこと?」
「ええ、まあ……」
「何か自分で考えてること、あるの?」
「いくつか……。まだ詳しく言うほどのものはないんだけど、義伯父さんの意見を聞きたいなって思って」

 義伯父は経済の動向やら注目されている企業のことなどを真面目に話し始めた。私は頷きながら聞いていたが少しも頭に入ってはいなかった。
「とにかく、よく勉強して慎重に決めないとね」
「ええ、それは、ちゃんと勉強します」

「それに、資金のこともあるだろう?当座はいろいろかかるだろうから」
「ええ、それなんです。勉強しながら、そっちのほうも並行して準備しないと何年かかるかわからないし……」
「そうだな。今がチャンスって時期がいつくるかもしれないからな」

 私はちょっと俯いて考える様子を見せた。
「資金、援助してもいいっていう人、いることはいるんです。投資だから損しても構わないからって」
「へえ、そんな人がいるんだ。ありがたいじゃないか。どういう人?」
「大学の先生」
とっさに言った。綿密に応酬話法を考えていたわけではなかった。
「奈緒ちゃんを認めてくれてるんだ」
「ちがうんです……」
私は声を小さくした。
「ちがうって?」
もじもじして、ためらいを見せ、間を作った。
「そのかわり、一緒に温泉に行こうって……」
義伯父の顔が変わった。

「温泉って、2人で?」
私は頷いた。
「なんだ、そいつは……ひどいやつだな」
本気で怒った形相になった。まさか大学に行って抗議するなんて言い出さないだろうが、ちょっと慌てた。
「でも、それでもいいかなって……」
「奈緒ちゃん」
「だって、30万も出してくれるっていうし。これからも付き合えばそれなりに援助してくれる約束なの。そうしたら早く資金も貯まるでしょ」
「ばかな。30万くらい僕が出してあげるよ」
「ほんと?」
「ああ。もっと援助するよ」
「うれしい」
「だからそんな話に乗っちゃだめだよ」
「わかった……。ほんとはその先生、気持ち悪い人なの。義伯父さんだったらいいんだけどな」
義伯父の目がたしかに光った。表情は明らかに落ち着かない。

「奈緒ちゃん、冗談はやめようよ」
「冗談じゃないわ……ふふ……」
「自分を安売りしちゃいけないよ」
その言葉はどこか力なく感じた。
(迷いに揺れている?……)

 1時間ほど経った頃、義伯父が時計を見た。私も携帯を確認した。8時をまわったところだ。
(時間を気にしてる……)
大人として、義伯父として私の帰宅時間への配慮を考えているのかもしれない。
「もう少し飲むかい?」
「うん……ちょっと、酔ったみたい……」
ほんとは酔っていない。
「じゃあ、そろそろ帰ったほうがいいか……」
顔に残念な表情が出ていた。
(もっとあたしといたいんだ……)
コップ半分ほどのビールを一気に飲み干した。
「おい、大丈夫か?」
「平気でーす。少し、歩きたい」
「じゃ、出よう」
義伯父の目が一段と私にまとわりついてきた。
 


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