ユリ-5
「ええ、男がいないとあそこが干からびて頭もヒネクレちゃうんじゃないんですかぁ」
「あそこが干からびて頭がヒネクレルか」
「今日はお客さんの下着ですか?」
「そう、僕のTバックを買おうと思って」
「へえ、Tバックがお好きなんですか?」
「うん、僕も女房も殆どTバックばかり」
「いいですねぇ、お2人でTバックなんてお洒落ですねぇ」
「そうかな、Tバックに慣れるとなんか普通のは穿けなくなってね。こう・・・なんて言うかあそこに食い込んでいないと下着を穿いていないみたいな感じがしてね」
「あ、やっぱりそうでしょう。私も」
「君もTバックの愛用者?」
「ええ、私下着集めるの趣味なんでいろいろ持ってんですけど、普段穿くのは殆どTバックですよ。それなのにあんな婆シャツ・おばさんパンツの和子さんが婦人下着売場に残って私が紳士用下着売場に飛ばされちゃうんだからおかしいですよねぇ」
「ハハ、そうだね。君の方が下着に関しては遙かに詳しいものね、表現力はちょっとあれだけど」
「そうですよぉ、ブラだって私いろんな物持ってんですよ。日本で売ってない奴とか」
「ほう、それは何? 外国に行って買ってくるの?」
「違いますよぉ、並行輸入って知ってますかぁ?」
「ああ、聞いたことはあるけど、君があんな難しいことやってるの?」
「まさかぁ、私頭が弱いからそんなこと出来る訳無いじゃないですか。そういうのやってくれる所あるんですよ。お金取って」
「ああなる程、しかしそれは随分凝ってるんだね。僕も下着には凝ってるけどそこまではしていないな」
「ちょっとお金かかるけどいいですよ。だって誰も持ってない物身につけてると思うと何か自信が湧いてくるんですよぉ」
「普段もそういう高い物を身に付けているの?」
「そうですよぉ。今だって上下で1万円する下着付けてますよ」
「ほう、それは凄いな」
「見たいですかぁ?」
「それは見たいね」
「いいですよぉ。7時に店の前のアルカイックっていう喫茶店で待ってて下さい」
「うん、それじゃ待っている」
小さなフィリピン・クラブを経営してママとして働いている妻は土曜日は忙しくて5時には家を出てしまうから、土曜の夜は内緒事をするには都合が良い。しかし本当に来るかどうかは半々だろうと思って余り期待はしていなかった。しかし7時前にユリちゃんはちゃんとやって来た。座ってちらっと見せてくれるのかと思ったら、座りもしないで
「それじゃ行きましょうかぁ?」
と言う。何処かへ行くつもりなのかと思い、言われるまま勘定書を持って一緒にレジまで行って払い、彼女のあとに従った。店を出るとすぐユリちゃんは当然のように光太郎と腕を組んで歩き出した。大きい胸が光太郎の二の腕あたりに時々当たる。わざとしているようには見えないが、二の腕で感じるなら乳房でだって感じる筈だから知っててやっているのかも知れない。それともそういうことには全く無頓着なのか。
ユリちゃんがぶら下がるようにして歩くものだから結構時間が掛かったが多分普通に歩けば10分もしないような所に彼女の住んでいるアパートがあった。これはひょっとして何かとんでもないことが期待出来るかもしれないと思いながら彼女の部屋に上がった。
「何か飲みたいですか? 缶コーヒーなら沢山ありますけど」
「いや、結構です、有り難う」
「それ飲みますっていう意味? 飲みませんっていう意味?」
「ああ、ノーサンキューという意味」
「そうかぁ、私って理解力に乏しいから、ちょっと難しいこと言われると分かんないんですよぉ」
「表現力が無い、理解力に乏しいって随分謙遜するんだね」
「あら、謙遜じゃ無いんですよぉ。いつも彼にお前は馬鹿だ馬鹿だって言われてるんです」
「ほう、僕を部屋に上げたことを彼が知ったら怒るんじゃないの?」
「全然大丈夫ですよぉ。だって彼とは別れちゃったから」
「ああなるほど。でもどうして?」
「お前みたいな阿呆と付き合ってると俺まで阿呆になるって言ってましたぁ」
「それは酷いこと言うなあ」
「ええ、阿呆は事実だからいいんですけどぉ、本当は別の女が出来たんですよ。それでそんなこと言うんです。最初は女は阿呆がいいって言ってたのに」
「それはもっと酷いね」
「ええ、さて下着だけどぉ、ちょっと私お腹がすいちゃったな」