ユリ-4
「実用品だと悪いの? 穿いて無いよりいいんじゃないの?」
「厭だ、和子さんたらぁ、穿いてないのが1番いいんですよねぇ、お客さん?」
「それはまあ、そうですね」
「ええー、貴方達何の話ししてんの? 私は真面目に話してるのに」
「いやいや、そういうつもりじゃ無いんですが、その・・・」
「あら、男の人から見てどれが1番魅力的な下着なのかっていう話しですよ。すんごく真面目に話してんですよぉ」
「だったら綿だってデザインによるんじゃないの?」
「そんなのインスタントだってコーヒーだよって言ってるようなもんですよ」
「どういう意味?」
「比較になんない」
「それじゃユリちゃん生理の時はどうするのよ、いくら頑張ったって生理の時は綿でしょう」
「いつもと変わりませんよぉ」
「何? 生理の時もナイロン・パンティ穿いてるの?」
「そうですよぉ、だって私タンポンですもん」
「ゲッ、今の若い子はあんな物使ってんのか」
「あんな物ってなんですかぁ」
「あそこに何か入れることに抵抗が無いのね」
「えー、酷い。それじゃまるで私ガバガバみたいじゃないですか」
「違うわ、抵抗ってそういう意味じゃないわよ」
「じゃあどういう意味ですかぁ? 引っかからないですんなり入るっていう意味でしょう? 私だってそれくらい知ってますよぉ。馬鹿にしないで下さい」
「あのー」
「は?」
「釣り銭はありましたか?」
「あ、ありました」
光太郎はもう少し2人のやりとりを聞きたくなっていたのだが、若い女性客が何か下着を抱えてレジに近づいて来るのが見えたので釣り銭を催促して足早に去った。男は化粧品売場とか婦人下着売場などというと何か近寄りがたい妖しい雰囲気を感じ取ってしまい、そこに働いている女性も選ばれた高級な人種だと思ってしまうのだが、現実は総菜売場やパン屋で働いてる女性となんら変わりないもののようである。
それから1ヶ月ほどして光太郎は自分の下着を買いに行った。服装には無頓着で金を掛けない方なのに、何故か下着には金を掛ける。別にブリーフだけでは無い。シャツも下着はエジプト綿の高級な物を買う。シルキイな感じだというシルクのシャツもいつか買ってみようと思ってはいるが、デザインの気に入ったものが見つからない。今日はTバックを買いに来ている。
あれこれ手にとって品定めしていると店員が寄って来て
「いらっしゃいませ。アラッ?」
「あっ、君は確かユリちゃんと言ったっけ? 婦人下着売場じゃなかったのかい?」
「厭だ、やっぱりあの時のお客さんですね。私今度こっちに配置換えになっちゃったんです」
「ほう、そういうこともあるんですか」
「お客さんのせいですよぉ」
「え? 何で僕のせいなの?」
「あの後私和子さんと上手く行かなくなっちゃって」
「えっ、どうして?」
「だって私のことガバガバなんて言うんですもん」
「ああ、そう言えばそんなこと話したっけね」
「そうですよぉ、お客さんのいる時でしたよ」
「そうか、でもあれは彼女が言ったんじゃなくて君が言ったんじゃなかったかな」
「厭だ、なんで私が自分でそんなこと言わなきゃならないんですかぁ?」
「うーん、そうだね。良く覚えていないけど」
「あそこっていくらセックスしても別にガバガバになったりするもんじゃないんですよぉ。週刊誌にそう書いてありました」
「ああ、まあ僕もそうだと思うよ。逆に締まりが良くなるんじゃないのかな」
「そうでしょ? ヨースルニ和子さん、私のこと男にルーズだって言いたかったんですよぉ」
「はあ。そうなのかな」