ユリ-3
「シルクって高いんでしょ?」
「そんなことありませんよ。1000円でいくらでもありますよ。お客さんもシルクをもう1つ買ってみますか?」
「うーん、シルクって何処が違うんですか?」
「シルクって素材が絹なんです。他のは綿とか化学繊維ですけど」
「はあ、まあシルクだから絹というのは分かりますけど、他の素材とどう違うんでしょうか?」
「さあ、光沢はありますけど、穿き心地はどうなんでしょう。私まだシルクって穿いたこと無いから」
「はあ」
「あ、ユリちゃん、あんたシルクのパンティって持ってる?」
「持ってますよ、勿論」
「穿き心地はどう? 綿とか化学繊維と違う?」
「それは違いますよぉ、シルクはなんて言うかシルキイな感じですね」
「シルキイ?」
「それはどういう感じですか?」
「うーん、困ったなぁ。私って表現力ゼロだから。ちょっと待って下さいね、実物持ってくるから」
「あ、別にいいですから」
と光太郎が言いかけるのに頓着しないでユリちゃんは売場に向かった。そして売場から何枚か下着を持ってきた。全部で4枚あり、赤や黒、白など色とりどりで、それをレジのカウンターの上に拡げて並べた。
「これがナイロン、これがポリエステル、これがシルク、これは和子さん御用達の綿です」
「あら、私だってナイロンの下着くらい持ってますよ」
「わあー、そんなの何時穿くんですかぁ。自分で穿いて自分で見てるんですかぁ?」
「あらまあ、失礼ね。私だってたまにはお洒落することがあります」
「でも彼がいなかったら下着までお洒落しても意味無いでしょう」
「うんそうなんだけど、何かを期待してっていうことあるじゃない」
「何かってナンパされることですかぁ?」
「まあそうなるんだけど」
「いやあだ、和子さんナンパされんの期待してナイロン・パンティ穿くんですかぁ?」
「別に期待するっていう程じゃないけど万一の為よ」
「万一なんて言うと何か事故みたいですねぇ。ナンパより交通事故で運ばれた時の為って言うんじゃないんですかぁ」
「あ、それは勿論あるわ。そういうの考えるとあんまり変な下着っていうのもやっぱり考えちゃうじゃない」
「変な下着ってどんなんですかぁ?」
「だからこっから折り返して腹巻き兼用になってるような奴とか」
「エーッ、そんな奇抜な奴ってあるんですかぁ? 私下着には相当詳しいと思ってたけどそれは知らなかったなぁー」
「あのー、それでどう違うんでしょうね。シルクって」
「ああ、だからナイロンはナンパもしくは交通事故用、シルクは本命用、綿はコメント不要、ポリエステルは・・・見た目はナイロンよりもセクシーなんだけど肌触りがあんまり良くないからナイロンとどっちがいいか好きずきですねー」
「そんなら肌触りのいい方がいいに決まってるじゃないの」
「どうしてですかー」
「だって下着なんて直接肌に付けるもんだし、1日中身につけてるんだから肌触りが1番大事に決まってるでしょ」
「いやだなー、和子さん。そういう意味じゃ無いです」
「じやどういう意味?」
「見た目のセクシーさを選ぶか、肌触りの気持ち良さを選ぶかそれは付き合ってる男の好みの問題だって言ったんです」
「へ? 自分の肌触りじゃないの?」
「そんなの問題じゃ無いんですよぉ」
「ふーん、まあそれはいいわ。それじゃ聞くけどユリちゃん、綿はなんでコメント不要なの?」
「だってねえ。お客さん、そうですよねぇ」
「はあ、まあ」
「まあって、どうしてですか? 私分からないな。綿だって悪く無いと思うけどな」
「ええ悪くないけど実用品って感じですね」
「そうですよねぇ」