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ユリ
【その他 官能小説】

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ユリ-21

 「言葉はどうなんですかぁ。日本語は出来るんですか?」
 「うん今はもう日本語ぺラペラ。と言ってもだいぶ可笑しいところがあるけど」
 「高田さんが教えたんですかぁ?」
 「いや、僕は全然教えなかったけど店でお客さんと話するから自然に上手くなって行ったね」
 「どうして教えなかったんですか?」
 「うん、教えるとこれは違う、あれは違うって指摘することになるから喋るのが厭になってしまうだろうと思ってね。間違っていたって僕が分かればそれでいいんだからと思って変な言葉遣いをしてもそのまま聞いていた」
 「へーえ、だから私高田さんと話すると気持ちがいいんだ。やっと分かった」
 「何がだい?」
 「今まで私、人から此処が違う、あそこが可笑しいって話してると直されてばっかりだったんですよぉ。それってすんごいストレスなんですよね。話する気がなくなっちゃうんですよ。高田さんってそういうのが全然無いから気持ち良く話せたんだな。今聞いてて、あ、そうかあって思いましたよぉ」
 「ああ、そうだろう? 言葉を人から直されるのは余り気持ちのいいもんじゃ無いよね。間違っていたって意味が分かればいいじゃないかと思うんだよ」
 「本当ですよねー。別に国語の勉強してる訳じゃ無いんですから」
 「うん僕もそう思う」
 「それで外人と結婚して困ったことなんか無いですかぁ?」
 「それは困ったこともあるし、助かったこともあるし、いろいろだなぁ」
 「え? 助かったことって何ですか?」
 「それはね、喧嘩しても言葉が不自由だから喧嘩にならないんだ。言ってもどうせ分からないと思って腹が立っても何も言わずに我慢しちゃうんだよ。それが後になって腹の虫が治まってから思うと、ああ、あの時相手が日本人なら言わなきゃいいことまで言ってしまって後悔しただろうなって思うんだ」
 「へーえ、そういうことがあるんですかぁ」
 「うん、だから腹が立つと僕はぐっと黙ってしまうんだ。女房は僕が怒っていることは分かるんだけど、それに同じ人間だからどうして怒ってるかも大体分かるんだけど、口汚くののしるっていうことが無いから僕のことを大人だなって尊敬してくれてるんだよ。でも本当は言っても分からないから言わないだけなんだけどね」
 「でも言っても分からなくても言うんじゃないですかぁ、普通の人は」
 「うーん、どうだろう。僕と女房は普段は日本語で話するんだけど、ちょっと複雑な話しとか真面目な話になると英語で喋るんだ。日本語だと彼女に理解して貰えないから。それで喧嘩の時も自然に英語になってしまうんだね。ところが英語だと僕の方があんまり思うように喋れないから黙ってしまうんだ。だから言っても分からないから黙ってしまうとさっきは言ったけど、本当は言い方が分からなくて黙ってしまうんだよ」
 「そうなんですかぁ、でもすんごいですねぇ。高田さんは英語が出来るんですねぇ」
 「いや、だから出来ると言うほど出来ないからそうなってしまうんだよ」
 「凄いなあ、私そんな人と付き合ったの生まれて初めてだな」
 「いや、英語が出来るなんて別に自慢するようなことでは無いんだよ。だってそれなら女房は日本語が出来るんだから凄いっていうことになる」
 「うん、だから2人ともすんごいですよぉ」
 「いや、ユリちゃんも東北弁が出来るだろう? それだって2カ国語出来るみたいなもんじゃないか」
 「東北弁が出来たって誰も感心してくれませんよぉ」
 「いや、だから言葉なんて出来たって別に感心するようなことじゃないということだよ」
 「そうですかあ。でもやっぱり凄いなぁって思いますよ」
 「僕と女房の会話っていうのはね、日本語と英語とフィリピン語が混ざっているんだ。で、フィリピン語と言っても彼女はフィリピンの北の方の出身なんでイヴァナグという少数民族なんだよ。それで喋る言葉もイヴァナグと言うんだ。だけど少数民族だから町に出ればイルカノという言葉を使わないと通じないんで、イルカノという言葉も喋る。それでフィリピンの標準語はタガログという言葉だから、彼女の言葉は初めからイヴァナグとイルカノとタガログが混ざっているんだ。それに日本語と英語が混ざっているから僕と女房の会話はフィリピン人が聞いても日本人が聞いても分からないんじゃないかと思うよ。日本語の分かるフィリピン人が聞いても分からないんだ。つまり2人の間でだけ通用する言葉を喋っているんだね」
 「凄いですねぇ、なんか秘密の暗号で喋ってるみたいなもんですねぇ」


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