ユリ-12
「今日はね、今まで撮り溜めた奴を焼き付けて持ってきたよ」
「わあー、すんごい。これが私ですかぁ。何だかスーパー・モデルみたい。高田さんの腕がいいんですね」
「いや、ユリちゃんの体がいいからね」
「うわぁー、良く撮れてるなあ。本当に何か雑誌の写真かなんかみたいですねー」
「うん、やっぱり布を垂らして正解だったね。それだけでなんだか専門家が撮った写真みたいに見えてくる」
「これいくらしたんですかぁ、私払わないとぉ」
「ああ、それはいいよ。いくらでも無いから。それよりユリちゃんはアルバムを用意してくれないかな」
「アルバムですかぁ、どんな奴がいいんですかぁ?」
「どんな奴って、それはユリちゃんが好きなのを買えばいい」
「えー? 私が好きなのを買っていいんですか。感激だなあ」
「変なことで感激するんだな。自分のアルバムだから自分の好きにしていいんだよ」
「私男の人に命令されるのに慣れてるから自分の好きにしろなんて言われると全然迷っちゃうなー。でも嬉しいなあ」
「ユリちゃんは下着以外に自分を主張する場が無かったんだね。だからそんなに下着に夢中になるのかも知れないな」
「そうなんですかぁ? 私難しいことは分かんないけど、高田さんがそう言うんならそうなんですよねー」
「いや分かんないけども、もっと自分に自信を持って好きなようにしたらいいんじゃないかな。それで男が厭だって言うならそんな男相手にしなければいい。ユリちゃんなら男なんて選り取り見取りだと思うよ」
「厭だ、高田さん褒めるのがうまいから私乗せられちゃうわ」
「いや本当の話だよ。女は自分が男にとってどれくらいの魅力があるものか美人は美人なりにブスはブスなりに弁えているもんなんだけど、ユリちゃんは自分の魅力に気が付いてないみたいだね」
「なんか複雑な誉め方しますねー。良く分かんないけど有り難う。高田さんと付き合うようになって私少し自分に自信がついてきちゃったみたい」
「それはそうさ、この写真を見てごらん。どれをとっても凄い魅力だろう。こんな女が男のご機嫌取りばかりする必要は全然無いじゃないかぁ」
「厭だ、高田さん、私の口癖真似してる」
「え? あ、そうだね。いつの間にか移っちゃったな」
「厭だ、高田さんて面白い」
「そうかな、僕は余り面白い男では無いよ」
「ううん、面白いですよぉ。それに高田さんといると私落ち着いちゃってなんか凄く自由に感じるんだけどどうしてなんでしょうね」
「今まで付き合ってた男が悪いんじゃないのかな。僕は普通だよ」
「そうですかぁ? 私って男に恵まれなかったのかな」
「うん、自意識が強すぎるのも良くないけどユリちゃんみたいに全然自意識が無いのも良くないね。もっと自分のことを認めてやらないとろくな男は寄って来ないんだよ」
「自分のことを認めてやるってどうするんですかぁ?」
「だからもっと自分中心に物事を考えればいいのさ。相手に合わせようとしないで」
「なるほど、そうなんですかぁ」
「私今日早退してパルコに行ってアルバム買って来たんです」
「ほう、どんなの?」
「これなんですけどぉ」
童話のような可愛らしい竜が火を吹いて人形のような男や女が逃げまどっている絵の表紙だった。
「おう、いいじゃないの。女の子らしくて可愛いね。何か物語の1場面みたいな絵だね」
「そうですかぁ。もういろんなのがあって、どれにしようか迷っちゃって。私下着以外の買い物はいつも男の人と一緒に行って決めて貰ってたからどれにしたらいいか分かんなくて、頭がどうかなりそうになっちゃった」
「そうお? でもいいのにしたじゃない。自分で選べばそれが1番いい物に見えてくるもんなんだよ」
「そうですねぇ。私も迷っちゃってお金払った後もまだ別のにしようかなんて思ってたんですけど、うちに帰ってきて開けてみたらこれって凄くいいなあって思えてきて」
「そうさ、迷ったって結局1番自分が惹かれた物を買っちゃうもんなんだ」
「そうなんですねぇ。私、なんか初めて自分で買い物したみたいで興奮しちゃいましたよぉ」