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マリア
【その他 官能小説】

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マリア-6

 「大丈夫ですか?」
 「ああ、早くアンパンくれ」
 「アンパンが売り切れだったのでアンマン買ってきました」
 「そうか、何でもいい。早くくれ」
 「はい」
 「何じゃあー? これは」
 「どうしました?」
 「お前、これはアンマンじゃ無いぞ。チョコレートじゃないか」
 「え? あっ、本当だ。アンマンって言って買ったのに」
 「こんなもの食えるかっ、と言っても食わないと死んじゃうから食うんだけどな」
 「どうも済みません」
 「気持ち悪いもんがあるんだな。チョコレートの入った饅頭があるなんて知らなかった」
 「そうですね。僕は、知ってはいたけど食べたこと無いなあ」
 「またよりによってこんな奇妙な物を買って来やがって。あんた俺に何か含む所でもあんじゃ無いだろうな」
 「間違えただけですよ、それも店員が」
 「店員が可愛いかったんで、鼻の下でも伸ばしてて間違えたんだろう」
 「会長じゃあるまいし」
 「馬鹿言うな。俺はもう役立たずで女に興味なんか無い」
 「女遊びが過ぎた罰なんでしょうかね」
 「あんた俺の過去も知らないで適当なことを言うな」
 「それじゃ女遊びはしなかったんですか」
 「いや、それは金にあかせてやりまくった」
 「そうでしょう」
 「やっぱり罰が当たったのかな」
 「そうですよ」
 「しかしな、あれが立たなくともいろいろ方法はあるんだ」
 「それじゃまだ女に興味があるんじゃないですか」
 「まあ自分が楽しむことは出来なくても相手を楽しませることは出来るからな。奪う愛から与える愛に変わったんだ。博愛精神に満ちて来たんだな」
 「与える愛っていうのは具体的にどうするんですか」
 「あんたのあれが立たなくなったら教えてやる」
 「その頃には会長は生きてないでしょう」
 「馬鹿言え。インポテンツなんてのはある日突然やって来るんだ。その時になって泣いても遅いんだぞ」
 「だからその時の為に今教えておいて下さい」
 「いや。あんたがさめざめ泣くのを見てからでないと教えられない」
 「意地悪なんですね」
 「他人の不幸は蜜の味と言うからな」
 「なるほど。会長もあれが立たなくなった時にはさめざめ泣いたんですか?」
 「俺のは突然じゃなくて徐々に徐々に立ちが悪くなって自然に老衰するごとくそうなっていったんだ」
 「するとショックは小さくて済んだんですね」
 「馬鹿言ってんじゃない。少しずつ首を絞められるのと一気にくびり殺されるのとどっちがいいと思ってる」
 「どっちも厭ですね」
 「そうだろ。徐々にだからいいってもんじゃ無いんだ」

 倉田は海千山千を相手に金儲けしているだけあってその老獪さは並大抵のものでなく、こすっからいブローカー連中の遙か上を行っているという感じで屡々感心させられる。しかし意外に子供っぽい茶目っ気もあって、なかなか憎めない人物なのである。
 ある日黒いスーツを着た大きな男が予約も無しにやってきた。一見してヤクザという感じの風体だったが意外に礼儀正しくて、怒鳴り込みに来た訳では無さそうである。ともかく応接ソファーに座って貰って名刺を交換すると大日本皇統愛国会会長補佐という肩書きであった。右翼だなと思い、皇室批判に聞こえるような発言は慎まないといけないと思った。



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