マリア-4
「はあ。やる気のある売れっ子というとどのくらい稼ぐもんなんでしょうか」
「それはもう月に300万は軽いですね」
「え? そんなに?」
「はい。1000万以上するフェラーリに乗って店に出勤して来る子もおりますですね」
「ほーう。それは凄い」
「そんな子は働き者で生理の時も休みませんですしね」
「え? 生理の時も? どうするんですか。タンポンか何かで誤魔化すんですか?」
「いいえ。タンポン入れたら穴が塞がってサービス出来ませんですよ。そういう子は沢山お客を持っておりますから、生理中を好む客というのもちゃんと持っておる訳です」
「なるほど」
「なんでも、そういう時は特別のチップが期待出来るんだそうです」
「ほーう。いろんなお客がいるもんなんですねえ」
「はい。でもチリチリ頭の黒人がいいだなんていうのと違って、それは理解出来ない好みとまでは言えませんでしょうね」
「はあ」
「宜しかったら手配させて頂きますが」
「何を?」
「ですから生理中の子を」
「あ、有り難うございます。でも僕は生理中で無い方が好きですから」
「そうですか。この話をすると大抵の方が興味を示されましてね、しかもそういうお客様を紹介するとソープ嬢の方も喜ぶんですわ」
「そんなもんですか」
「まあ、物珍しい物を好むというか、そういった感じなんでしょうね」
「僕は独身ですから物珍しい物を好むという所まで至っておりませんで」
「あ、社長さんは独身でいらっしゃいますか。それは又どうしてなんでございましょう」
「どうしてっていう程のことは無くて、ただ好いてくれる女がいなかったというだけなんです」
「また御冗談はいけません」
「いやいや。冗談なんかじゃありません」
「それではいい子を紹介させて頂きますから、是非1度ガス抜きにおいで下さい」
「はあ。ガス抜きですか」
「ええ。男は時々ガスを抜きませんと痴漢や下着泥棒に走ったり、逆に早々と老け込んだりしてしまいますからね」
「はあ」
「まあ、お任せ下さい」
倉田が40分遅れて事務所に来ると水田は祐司に対するのと全く変わらない丁寧な口調で挨拶を交わし、2〜3世間話をしていたが、ものの10分もしない内に帰ってしまった。
「あの人は何か用があって来られたんじゃ無いんですか?」
「いや。特に用があった訳じゃ無いんだろ」
「そうですか」
「今2〜3大きな話が進行中だから、どれか引っかかりおったらあんたにもいい眼見せてやるぜ」
「はあ。期待しています」
祐司は全然期待しないでそう言った。 大きな話が進行中だからどれか引っかかりおったらあんたにもいい眼を見せてやるというのは倉田の口癖で、未だに引っかかったことが無いのである。話の内容はボルネオの山奥を開発する話が進行中で1000億単位の金が動くとか、アマゾン上流に大化学プラントを建設する話とか、とにかくやたらに規模の大きい眉唾物が多くて聞く気にもなれないのである。しかし月給日になるとちゃんと月給を払ってくれ、事務所の経費も時々補充するし家賃もちゃんと払っている様子なので、その点は感心する。一体何で儲けているのだろうと不思議なのだが、祐司には関係無いことなので聞かない方がいいのかも知れないと思っている。まさか違法な取引をしているとは思わないが、とにかく得体の知れない老人で深く関わりにならない方が良いと心得ているのである。