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マリア
【その他 官能小説】

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マリア-28

 「それは有り難う。でも遠慮してるんじゃ無いよ。僕はまだ死にたくないだけだ」
 「だったら、20万円にして上げる。つまりお小遣いが月に10万円になる訳よ。でも私と一緒に生活すれば煙草代くらいしか使い道なんて無いでしょ?」
 「それじゃまるで僕はヒモじゃないか」
 「いいでしょう? 私のヒモになりたがってる男は5万といるのよ」
 「僕はヒモなんて厭だ」
 「だからこのお店で働くのよ。お小遣いは給料みたいなもんだから、恥ずかしいと思う必要なんて無いのよ」
 「うーん。参ったな。ああ言えばこう言うで、僕のお株を取られた感じがする」
 「参ったんなら降参しなさい」
 「参ったなあ。あのVIPカード貰ったばかりにこんなことになるなんて思ってもいなかったなあ」
 「まあ、まだ4ヶ月あるからゆっくり考えても良いわ。でも4ヶ月経ったら私と一緒に旅行して、その後一緒に生活し始めるのよ」
 「そんな。ゆっくり考えてもいいわって言ったって、結果が決まってるなら、考えてもしょうが無いじゃないか」
 「そうね。考えるのは貴方の性に合わないでしょうから、ただ今まで通り暮らしていればいいのよ。全部私が段取り付けるから」
 「あのねえ。考えるのは僕の性分なんで、僕の仕事だったんだ。考えるのは貴方の性に合わないだなんて言わないでくれ」
 「あら、そうお。だったら好きなだけ考えていてもいいのよ。貴方の頭の中身まで私に頂戴なんて言わないから」
 「そんなの当たり前だ。一体僕の何をくれって言うんだ」
 「だから、貴方の残りの人生を私に頂戴」
 「おいおい、そんなこと言われると僕はもう直ぐ死にそうな老人になったみたいな気がするよ」
 「馬鹿なこと言わないの。貴方は私よりだいぶ年上なんだから、長生きして貰わないと困るわ」

 そんな会話を交わしたのがつい先日のことで、祐司は以来深刻に悩んでいる。美味い話には違いないのだが、一体何だってマリアは僕を選んだのだろうか。美味い話には落とし穴があると昔から言う。何処に落とし穴があるのか頻りに考えてみたのだが分からない。金もない、力もない、一応社長という地位は持っているがこんなのは拭けば飛ぶような屁のようなものである。僕を騙してマリアが得することなんておよそ考えも付かない。するとやはり、これは僕のフェロモンが効き目を現したということなのであろうか。そんなことを考えながらついにやにやしてしまう祐司なのであった。

 「銀座のスナックのマスターねえ。プロフェッショナルのセックス・バイキング付きで10万円の小遣いか。夢みたいな話だけど、どうなんだろう。飽きたら捨てられてお終いだな。今の仕事だってそうだけど。倉田がこけたら僕もこけるし、倉田に嫌われれば僕は首になる。すると相手が女に代わるだけの話なのか。倉田とセックスする訳にはいかないけど、マリアならやりたい放題ということになる訳だ」

 そう声に出して呟いた。桃子がやってきたのは丁度そんな時だったから、つい、おっぱいだのセックスだのと本音を洩らしてしまったが、男だからなるべく良さそうな女と一緒になりたいというのはやむを得ない。まあ、あと4ヶ月あるのだから取りあえずの所は今の生活を変える必要は無い。4ヶ月経ってマリアの気持ちが変わるかも知れないし、その時に決めればいいことなんだからと一応の結論を出した。つまり結論を先送りするという結論である。祐司のそんないい加減さが、暢気で大らかな印象をマリアに与えているのだとも知らずに。


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