冬恋慕-10
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私は、友人の舞子に長い話を終えると携帯電話を切り、マンションのバルコニーに佇む。
冬が終わろうとしていた。夜更けのひんやりとした冷気がからだの隅々に入り込み、白々とし
た夜空からなごり雪が微かに舞い降りてくる。階下にひろがる街の沈黙が翳りを濃くし、雪は
冷気のなかに溶けていく。
目の前で蛍のように光っては消えていく雪が心の中をすり抜け、遠い記憶をはっきりと浮かび
あがらせる。バルコニーの手すりに頬杖をついて煙草を咥えた私の頬を微かな風が優しく撫で
ていき、闇に溶けていく雪の光がしだいに私の心を無為の時間に澱ませる。
愛する人を失う切なさは、苦痛でありながらもほんとうの自分を息吹かせ、自らを冴えさせる
ものかもしれない。壊死（えし）が始まった遠い記憶の中の性愛は、混沌とした暗い海に溺れ
かける苦痛でありながら、救いに充ちた欲望を孕んでいると思うことがある。
冬の終わりの風景に映った私の心は、遠いコウジの幻影をいまだに追い続けている。もしかし
たらその幻影は混沌とした無彩色の残滓を散りばめながらも、慈しみに充ちた優しさで私を
ふと抱きあげてくれそうな気がした。
コウジを自分の前から、そして現実から失うことを予感していたわけではない。それでも私は
自分が彼の欲望であり続ける意味をずっと問い続けていたけど、コウジとどんなに交わっても、
彼をどんなに愛しても、私はその問いに応えられなかった。そして、あのころ眩しすぎると
感じたものが切ない記憶となって闇夜にまぶされ、わからなくなるくらいに薄められ、私の
想いとは無関係に昏い冬の終わりの空に消えていった……。