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冬恋慕
【SM 官能小説】

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冬恋慕-1

ごめんなさいね、急に電話して。特に用事もないんだけど、あの雪の日に渋谷で舞子に久しぶ
りに会ったら急に電話をしたくなって。カズミなんて、急に声をかけられたときはびっくりし
ちゃったわ。まさか舞子だなんて思わなかった。あのときは時間がなくてごめんなさいね、
お客様との約束があって急いでいたから。そうなのよ。あたしってまたSM女王様を始めたの。
知人にSMクラブを紹介されて。舞子とSMクラブ「ルシア」でいっしょに女王様やっていた
のが、お互い二十八歳の頃だからあれから十数年ぶり。こんな年増の女王様なんてお客の指名
があるのかしらなんて思っていたけど、当時のあたしのことを憶えていた客もいてそれなりに
忙しいわ。名前もあの頃と同じでカズミ女王。SMクラブの女王様って、ほかの風俗をやるよ
り楽なのよね。お客相手に変なおべっかを使わなくていいし、下手なセックスの相手なんてし
なくていいから。男をイジメてお金がもらえるなんて楽しいけど、イジメられてお金を払う男
も不思議だわね。

そう言えばあの頃、「ルシア」のママにS嬢として店に来ないかって誘われたのが舞子と出会
うきっかけだったわね。鞭でマゾ男のお尻をぶってあげるくらいはよかったけど、ハイヒール
の踵でタマタマがつぶされるくらい踏みつけて欲しいとか、窒息するくらい顔面騎乗でイジメ
て欲しいとか、尿道カテーテルに乳首針なんていうドMの客もいたわね、とにかくやりすぎな
いようにプレイをするテクニックとか、演技なのにS女になりきって、演技じゃない言葉で客
を罵倒するなんて、ほんとうに難しかったわ。でもイジメられる男があたしのプレイで快感に
浸ることができるってことは、あたしにとっては男に尽くしているってことの快感なの。目の
前のイジメられたい男に尽くすためにあたしはハイヒールの足先を差し出し、彼のペニスを
踏みつける、男をイジメることって、彼の心や体の奥底にあたしが深く入り込んでいくことな
のよね。


昨日の客は、いつもの常連の客で白髪がきれいな中年男。彼はあたしが中退したミッション系
の高校の先生だった。当時は主任先生だったけど、半年前まで立派な校長先生…だったらしい
わね。どういうことかって。正確に言うと今の彼はホームレスの男。お金はあるのに野外のい
ろいろな場所を放浪しているらしいわ。彼はもちろんわたしの顔なんて憶えてなんかいなかっ
たけど、わたしは憶えていたわ。だってとてもハンサムだったし、その面影は今も残っている
の。シャワーを浴びてきた先生ときたら、中年にしてはよく鍛えたマッチョの身体に似合わな
い小さなおチンチンをぶらさげて、あたしの前に突っ立ったまま、カズミさん、よろしくね…
なんて馴れ馴れしく言ったわ。あなたってわたしのドレイでしょう、なによ、そのご挨拶は。
あたしの足元に跪いて床に顔を擦りつけてご挨拶するのがドレイなのよ、って言って思い切り
彼の頬を平手でぶってあげたわ。はっ、はい、わかりました、申し訳ございませんでした…な
んてわりと素直だったけど、ドレイのプレイは最初が肝心なのよね。それにしても中年男の
マッチョってとてもいやらしく感じるのよね、何か無理しているみたいで、自惚れた肉体を
誇示して、男の色っぽさなんて何も感じないわけ。

先生はお見合い結婚し、三十年間連れ添ってきた奥様と離婚し、家を出たらしいの。理由は奥
様の浮気だったらしいけど、ほんとうは奥様の浮気に嫉妬も憎しみもない自分が嫌になったら
しいわ。もともと奥様のところに婿養子として入ったこともあって、家を離れることに未練は
なかったらしいけどなぜホームレスなのかよくわからないわね。彼が言うには自分の《欲望》
を探しているらしいわ。欲望ってなにって聞いたら、愛せる女性を探すことだって。愛しても
いない奥様となぜ三十年間もすごすことができたのか、自分でもわからない…なんて。


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