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冬恋慕
【SM 官能小説】

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冬恋慕-9

あううっー…うぐっ、うぐっ… 彼はとってもいい声で鳴いた、熱蝋が彼のペニスの根元から
陰嚢に滴り、太腿の付け根の肌の上を糸筋のように蝋がすっと流れていく姿は、まるで老いた
美しい殉教者のようたたったわ。次々に数滴の熱蝋が屹立したペニスの亀頭を襲うと熔けた蝋
が包皮に滲み入るように淫靡な光沢を放ち、ペニスが痛々しく勃起と弛緩を繰り返すの。

屹立した貧相なペニスのえらの溝を、熱蝋がいびつな斑模様に包み込んでいくのはちょっと
グロテスクだったわね。。ぶるぶると震えるペニスの芯から疼きが溶けだしたように鈴口から
溢れた透明の液が、雁首の皮膚の表面に滴った蝋のまわりに滲ませた彼は、首筋に汗を滲ませ、
自分の肌を刺す熱蝋に自虐的に陶酔したように目をぎらつかせていたわ、そして急に床の上に
ピュッ、ピュッって、薄くて匂いのない水みたいな少量の白濁液を放出したの。あたしは言っ
てやったわ、ほら、これがあなたのほんとうの愛なんだって、たったこれだけの精液があなた
の生きてきた証しのすべてなんだってね。だからあなたはこれっぽっちしか女性を愛せない、
あなたの亡くなった奥さんに対してもそうだったのよって。



コウジ彼とは五年つきあったわ。五年もお互いに必要とする関係でいられる自分がとても不思
議だったわ。けっして恋し過ぎたわけでもなく、愛し過ぎたわけでもない。でも心も肉体を
互いに欲する方法と意味があたしたちにはわからなかったような気がするのよ。コウジと別れ
る理由も、別れない理由もあたしはないと思っていたわ。でも思うのは、プレイは演技だと思
っていたけど、恋人同士のセックスなんてもっと演技だって。違うのはセックスが演技だって
ことが自分で気がつかないってこと。恋して愛しあったことで、あたしたちの欲望は水彩絵の
具のように薄められ、互いの肉体の中で無色透明の液体に濾されてしまうのよ。

そう思ったときから、あたしは彼と寝ることに倦怠感を覚えたし、セックスの時間なんて早く
終わって欲しいと思うことがあったわ。味のしない彼の精液を舐め啜っている自分にうんざり
していたのよ。飲みほした彼の精液が胃液と混ざり、澱んで、怖いほどの苦味をあたしの咽喉
を逆流してきたわ。そして胸奥の冷たい心臓が音を潜め、眠り続けることに気がついたあたし
は自分自身に耐えられなくなったのよ。でもいずれふたりのあいだに忍び寄ってきたものに
気がつくのは早かったわね。性愛はやがて色褪せていくもの、だからあたしたちは互いに縛り、
嬲り、虐め、そして嫉妬、焦燥、渇きがもたらす欲望という癒しと安らぎが必要だったのよ。

ええ、コウジが突然の事故で死んだときは、悲しいというより切なすぎるほどの孤独があたし
をどこまでも追いかけてきたわ。まだコウジを愛しているのかって。わからないわ。あたしは
彼の愛し方がわからなかった。それに彼もあたしの愛し方がわからなかった。だからあたした
ちは別れた、お互いけっして嫌いになったわけじゃないの。

今も彼の夢を見ることがあるわ。懐かしさに充ちたコウジの顔があたしの開いた股間に押しつ
けられ、執拗に陰部の匂いを嗅ぎ、あたしの割れ目から滲み出る蜜を啜ろうと必死にもがいて
いる夢。そのときあたしはコウジの幻影とずっとセックスを続けたいと無性に思ったわ。彼の
ペニスをあたしの中に含み、息の根を止めるように喰い絞めたら、ほとばしる彼の精液の飛沫
はきっと素敵なレクイエムを奏でそうだったわ。

でも彼のことを想い浮かべると、あたしの中で何か泡のようなものがつぶれていく音がして、
なんだか自分が怖くなるものが眼覚め続けているの。そのつかみどころのないものは、もしか
したらあたしの欺瞞に充ちた懺悔、哀れな贖罪、それとも鎮魂という欲望の幻影かしら。
そして、おそらくずっと閉ざしてきたあたしの中のコウジに対する感傷は、夢の中の彼のどこ
か悲しげな瞳の中に淡い風景となって溶けていった気がしたのわ……。




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