深夜の展望台-4
音楽はいつの間にかセレナーデに変わっていた。それは、わが校の定番アンコール曲だった。
先輩たちとの最後の演奏も、私自身の最後のステージも。目を赤くしながら必死に堪えてこの曲を吹き続けた。
私のブラウスの最後のボタンに伊巻先輩の指がかかったとき、私は一筋の涙を零した。
「やあ、久しぶりだね。そのふくよかな膨らみも、その潤いに満ちた谷間も。」
気付けば私は着ていたものを全て脱がされていた。よく覚えてはいないが、抵抗した記憶は無い。
「下品ですよ…。」
先輩はフカフカのカーペットの上に横になった私の体をひとしきり観察し、上に覆い被さってきた。
「下品は嫌いか？」
「嫌いとかそういう…」
私の唇は塞がれ、愛撫が始まった。
最初は掌が穏やかに私の素肌を這いまわっていた。それが次第に体の深い部分にまで指先が入り込み始め、徐々に激しさと執拗さを増していった。
「ああ、先輩。そんなに強くしないで…。」
私の願いは聞き届けられなかった。もとより、本当に望んで言ったのでもなかったが。
「あはうぅ…」
息つく暇も与えない怒涛のような連続攻撃に、気付けば私は自分から足を開き、彼の指を、舌を求めていた。
ふいに、先輩が立ち上がった。天井に手を伸ばし、ネットの上から何かを取り出した。
「え、そんなもの、どうするんですか…」
本当は知っていた。それが何なのかを。
ブィーンと唸りを上げる電動マッサージ機や、天井のバーに吊り下げられた大きな結び目が並んだ赤い縄や、鈍い光を反射する金属製のクリップ、電気でグネグネ動くブツブツの棒など…。先輩は次から次へと禍々しい道具を使い、私を容赦なく痛めつけた。
普通ならけして了承しない乱暴な扱いを、私は拒むことなく全て受け入れた。女の体を知り尽くしたような巧みな愛撫に翻弄され、何をされても逆らうことなど出来なくなっていたのだ。
そして、私の体はそれらの凶悪な責めに予想外の反応を示し、初めて経験する被虐の悦びに震えた。
「ああ…、ダメ、ダメよ…。そんな物を使ってそんな所にそんなことされたら…壊れる！壊れてしまいますよ、私の体も、心も…。」
「壊れろ、直香。壊れてしまえ。君はまだ本当の女の悦びを知らない。」
彼の言う通りだった。有り得ない部分への有り得ない仕打ちを受けた私の体は次々に目覚めさせられていき、想像もつかなかったような快感が全身のあらゆる部分から絞り出され、溢れかえった。
「こんな、こんなのって…。私の体に、こんな悦びが眠っていたなんて…。」
私は何度も何度も絶頂の淵に押し上げられた。心は既に溶け落ち、彼に与えられる倒錯した快楽を貪り続けることしか出来なくなっていた。
「入れるぞ。」
「いけません…夫が…」
反射的に口をついて出た言葉は、もちろん意味をなさなかった。
ズン。
「あはぁっ…」
深く深く、私の奥深くに突き入れられた重い重い一撃は、灼熱の炎で内側から私を焼き焦がした。
「だ、ダメよ…。ダメっ！先輩、やめて！」
「やめてもいいのか？本当にやめても。」
私は、自分の腰が自分から彼に向かって何度も打ち付けられるのを、他人事のように見つめた。
「ああ、幸雄さん、私は、私は…他の男にーーーーーっ！」
下腹部から湧き起こった信じられないような快感の大波が体を芯からジリジリと痺れさせ、私の意識を絶頂の泥沼へと沈めた。
私は、漆黒の眠りに落ちた。