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疼きに喰い込む赤い縄
【その他 官能小説】

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二人きりの音楽室-1

 「先輩になら、私の体のどこに何をされても…いいですよ。」
 当時十代後半だった私は、まさか自分がそんな言葉を発するとは想像したこともなかった。
 それはただの成り行きだったのか、それとも何らかの必然だったのか…。
 今でもそれは分からないけれど、私は”その日”を突然迎えることになった。

 音楽室の前で、少し緊張した様子の伊巻先輩に呼び止められた私は、まさかの展開を期待せずにはいられなかった。でも、先輩から告げられた話は私に眩暈を起こさせるに十分だった。
 「なあ、杉本。仰木が君に話したいことがあるんだってさ。」
 自分で自分の頬が引きつるのがはっきりと分かった。よりによって、他の先輩との仲立ちだなんて。
 「お、おい、大丈夫か。俺、代わりに行って断って…」
 「いいえ。自分で行きます。大丈夫…です。」
 私の様子から仰木先輩への返答を察した伊巻先輩が気を使ってくれたが、自分できちんとしておきたかった。
 教えられた場所で待っていた仰木先輩は、私の顔も見ずにボソボソと予想通りの事を告げた。長い長い沈黙の後、私は一言だけ口にしてその場を足早に離れた。
 彼のことは嫌いではなかった。いやむしろ、好感を持っていた。好きだったと言ってもいい。人物として、優しく指導してくれる先輩として。だから、余計に辛かった。いっそ嫌いな人なら良かったのに。
 私は大きなショックを受けた。しかし、最も大きなショックは別のところに有った。
 もしかして私の事を、と思っていた伊巻先輩が、まさか他の男の人を…。いつもの通学路を泣きながら帰った。もう日が短くなり始めた季節だったから、その姿を誰かに見られなかったのが唯一の救いだった。
 その翌日。
 練習後、部室の整理を手伝ってくれないかと頼まれ、私は引き受けた。上級生の頼みだから断れなかったのではない。入部したときからずっと憧れていた伊巻先輩と二人っきりになれる数少ないチャンスだったからだ。
 正直、怖かった。不安だった。気まずい雰囲気になったらどうしょう、というのももちろんあったけれど、昨日の出来事がどうしても頭をよぎって…。
 いきなり訪れた二人きりになれるチャンスなのに、私は手放しで喜べなかった。もしかしてまた仰木先輩の事を何か言われるのではないか…。そうなったとき、私は何と答えればいいんだろうか。心配と不安が頭の中をグルグル回っていた。
 「なあ、杉本…。」
 「え?あ、はい…。」
 「君、好きな人とか、居るの?」
 来た。やっぱりその話か。私は絶望的な気分になった。
 「…ええ、居ますよ。」
 そうか、そうなんだ、と先輩は呟き、口を閉じた。
 無言で部屋の片づけをする二人。気まずい沈黙が延々と続いた。
 「…だったらしょうがないんだけどさ。」
 仰木先輩がまだ諦めてないとか、あるいは他にも、なんて話?いらないモテ期、来ないで。
 私は焦った。このままでは、このままでは…。
 「せ、先輩こそどうなんですか?いるんですか、いないんですか、どうなんですか?」
 「え?え、あ、あの…」
 ガシャ、ガラガラ。
 彼は私の勢いに押されたように一歩下がり、片付けたばかりの譜面台の山を踵で蹴飛ばして崩した。
 「いないんなら、私と付き合って下さい!」
 「…。」
 先輩は目を見開き、バケモノを見てしまったような顔で私を見ている。
 「あ、あの…先輩?」
 「杉本…。」
 「…って、言ってみただけですよ。無理なの…分かってる…し…。」
 私は壁の方を向いて俯いた。勢いと焦りでつい言ってしまったけど、なんて無謀なことをしたんだろう。顔が焼け焦げそうなくらいに熱かった。
 「杉本、正気か。」
 「しょ…?ええ、正気ですよ。言ってる内容はバカみたいですけど。」
 「あ、ごめん、間違えた。本気、か。」
 私はなんだかヘンな気配を感じて振り返った。
 「…本気、ですよ?」
 先輩は大きく息を吸って俯き、体をガタガタ震わせ始めた。そして。
 「…。」
 「え?何か言いました?」
 その声はあまりにも小さくてよく聞き取れなかった。
 「やった…」
 「やった?」
 彼は顔を上げ、グラグラ揺れて安定しない手で私を指さした。
 「俺、好きだったんだよ、ずっと。」
 「え…」
 見つめ合った。
 体の奥の奥から、熱いものがジワーっと全身の隅々にまで広がっていった。
 「あ、あの、確認なんだけどな、杉本。」
 「はい。」
 突然訪れた幸福にぼんやりしていた私に、先輩が躊躇いがちに尋ねてきた。
 「つつ、付き合うっていうことは、えっと…」
 「はい。」
 「しし、してもいいんだよな。」
 「は?」
 正直、そこまでは考えていなかった。憧れの人と恋人同士になれたら…。そんな風に淡いときめきを抱いていただけだったのだから。
 でも。
 「も、もちろんです。付き合うって、す、す、するんですよね。だって付き合うんだから。」
 私は恥ずかしくて怖くてたまらなかったけど、承諾した。
 だって、ここでキメておかないとまた邪魔が…あ、仰木先輩、ごめんなさい。でも、逃したくないんです。このチャンス。
 「先輩になら、私の体のどこに何をされても…いいですよ。」
 そう告げると、伊巻博也先輩は目を血走らせて私の制服ブラウスの胸元に手を伸ばし、ボタンを外そうとした。でも、その手はとても震えていたので、うまくいかなかった。私は先輩の手をそっとどけて、自分でボタンを外していった。
 「杉本…。」
 先輩は、明らかに動揺している目で私の胸をチラ見している。
 「見て、先輩。これが私です。」
 私は背中のホックを外し、ゆっくりとブラを捲り取った。


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