新たなる犯罪-1
ビルに入ると目の前には一流企業ばりの受付があり、受付の女性が応対してくれた。来訪は伝えられていたようで内線で2人の到着を知らせると電話を切り和かな笑顔で言った。
「社長室は10階になります。そちらのエレベーターでどうぞ。」
「ありがとうございます。」
2人は礼を言うとエレベーターに乗り10階に向かう。
「もう勤務時間過ぎてるはずなのに嫌な顔せず応対してくれるなんてね。華英だったらきっと不機嫌露わにして素っ気なく応対するんだろうね。」
小馬鹿にするような目で華英を見る。
「そんな事ないよー。ちゃんとやるもん。」
「へー。」
そんな会話をしているとすぐに10階に着いた。エレベーターのドアが開くとミニスカートを履いた私服の女性が和かな笑みを浮かべて立っていた。私服と言っても雑誌から飛び出して来たようなお洒落な服だ。捜査時の服装をしている自分が恥ずかしくなるような、そんな洗礼された東京の働く女性と言った雰囲気の女性に目を奪われた。
「遠路ご苦労様です。私、秘書の熊谷沙耶と申します。どうぞこちらへ。」
「ありがとうございます。」
2人は沙耶の後ろを歩き社長室へと入って行った。
「失礼します。千城県警の菜月様と三島様がお見えになりました。」
「どうぞ。」
中へ入るとマギーと華英は一瞬目を疑った。何故なら2人が想像する社長室のイメージとはあまりにも掛け離れていたからだ。そこには多くのパソコンが置かれており、夥しい数の配線が見える。その為様々な機材も置かれており、生活感もある。ちょっとしたパソコンマニアのような部屋であったからだ。そしてパソコンの前で作業している社長の中島は、頭もボサボサで着衣もジャージ。パソコンオタクの私生活と言った感じを受ける空間であった。
「すみませんね。ここで生活してるもんで。」
良く見ると風呂やトイレも備わっている。本当にここで生活しているようだ。秘書も社長室の中の台所でコーヒーを淹れている。
「初めまして、千城県警の菜月と三島と申します。」
挨拶するマギーに、作業を止め名刺を渡す中島。
「初めまして、社長の中島哲治と申します。」
見かけと違い応対はしっかりしている。髭などは伸びっぱなしだが、清潔にはしているようだ。ナチュラルないい香りがする。
「もともと趣味で始めた yourtubeで、一人で部屋で運営していたもんで、この方が落ち着くし能率がいいんで。社長室ってより、自宅兼仕事場って感じですかね。」
今や一部上場の日本でも有数の大企業になった yourtubeだが、そんな企業の社長らしからぬ姿にギャップを覚えたが、しかし中島自体は紳士的で誠実そうな人間だ。本当にこの仕事が好きなんだなと感じさせる、そんな印象を受けたマギーであった。