2 順子-1
2 順子
文化祭が終わると後は卒業まで何も行事は無い。修学旅行も体育祭も進学準備の為に学年初めに設けられていてとっくに終わっている。良介のクラスは就職志望者と芸術系大学への進学希望者が集められたクラスで、それだけでは1クラスを編成するのに人数が足りないから文化系の進学希望者も何人かおり、良介はその1人である。
木原涼子は宝塚音楽院に入る希望であり、室野芳恵はピアノ、田宮順子は声楽の進学希望、マサルはどこにも就職せず卒業と同時に婚約者とアメリカに数ヶ月行き、なんとかクラフト・インスティテュートという所に私費留学して帰ると父親の経営する一葉流生け花教室の正式な教授になるのだという。大和田裕子は新宿にある服飾専門学院に進学希望で、将来はデザイナー志望、駄目でも実家がブティックを経営しているから無駄にはならない。
他のクラスが文化祭終了と同時に受験勉強の追い込み時期となるのに対して、良介のクラスにはそういう雰囲気は全く無い。芸術関係に進学する希望者はそれぞれ独自に予備校なり家庭教師なりに1年生の時からついており、学校の授業など内申書には関係するが受験そのものには全く関係ないということらしい。
「お前少しは受験勉強しなくていいの?」
「してるよ」
「塾か何か通ってる?」
「通ってない」
「そんなんで大丈夫なのか?」
「そんなんで大丈夫な大学選ぶから」
「なるほど。大学ってもいろいろあるからな」
「うん」
「そいで大学出たらどうすんの? 就職すんだろ?」
「まだ考えて無い」
「まだ考えて無いったって、大学出てうちでブラブラしてる訳には行かないだろ?」
「そうだな」
「どっか就職すんだろ?」
「そうだろな」
「お前暢気だな」
「いろいろ大学あるから会社もいろいろあるだろ」
「お袋さん何か言わないの?」
「何かって?」
「粕谷君の家なんか遊びに行かないで少しは受験勉強しなさい、とか」
「僕が遊びに来ると迷惑なのか?」
「そうじゃ無いよ。俺は全然構わないけどお前大丈夫なのかと思って」
「母さんは何も言わないな」
「母さんは?」
「姉さんがうるさく言う」
「何て?」
「良介は馬鹿なんだから少しは勉強しろって」
「そうだろ」
「だけど馬鹿は勉強しても無駄だろ」
「それはそうだな」
「先生もうるさいな」
「小泉が?」
「うん」
「勉強しろって?」
「うん、内申書は最高に書いてやるからそれにふさわしい受験成績取ってくれって」
「何処受けんの?」
「先生に任せてある」
「先生に任せてある?」
「うん」
「それってどういうことだよ?」
「どういうことって?」
「自分の希望って無いの?」
「僕の希望?」
「ああ、この大学に行きたいとか、こういう大学がいいとか」
「それなら無いことも無い」
「どこ?」
「安い所」
「安い所?」
「うん余り金の掛からない所」
「お前んちあんまり金が無いの?」
「どうだろ? 良く分かんないな」
「それじゃどうして安い所がいいんだ」
「どうせ何処行っても大して変わりないから」
「そうだな。それはそうだな」