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良助
【青春 恋愛小説】

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2 順子-2

 「僕なんか勉強してちょっといい所に入っても、授業料高い所に入っても、それで何が変わるっていうことは無いだろ?」
 「そうだな。お前もお前なりに考えてはいるんだな」
 「うん、無い知恵絞ってる」
 「受験勉強に知恵絞るより、それのが利口かも知れないな」
 「うん、僕もそう思うんだ」
 「俺なんか卒業したら芳恵とアメリカ行くってんで英語を習い始めたんだ」
 「室野と?」
 「違う。けった糞悪いな。室野と同じ名前なんだよ、あの女」
 「あの女って?」
 「だから前にお前見たことあるだろ? 俺の婚約者」
 「ああ、あれか」
 「まあ、あいつと一緒だから英語はあいつに任せるつもりなんだけど、親父が英語を習いに行けって言うんだ」
 「英語かあ。日本語の通じる国に行けばいいのに」
 「日本語の通じる国なんてあるのか?」
 「どうだろ。外国のことは余り良く知らないな」
 「そんなのあったら俺もそこへ行きたいよ」
 「でも帰ってきたら英語ペラペラなんて格好いいじゃないか」
 「ペラペラな訳無いだろ」
 「そうか」
 「俺な、お前の姉さんの写真見っけたぜ」
 「皆で撮った奴?」
 「皆で? ああ、文化祭の時のか。違う、雑誌に載ってる写真」
 「雑誌に載ってる写真?」
 「これだよ」
 「本当だ。姉さんだな」
 「綺麗だよなぁー。こんな女と一発やりたいよ」
 「姉さんと?」
 「姉さんみたいな女と」
 「こういうのが好きなのか」
 「こういうのが好きだよ。普通はこういうのが好きなんだぜ」
 「そうか」
 「お前は幸せだよな。毎日この姉さんと顔合わせるんだから」
 「僕はこの姉さんと毎日顔会わせるから、なんて不幸なんだろと思ってるんだけど」
 「何で?」
 「勉強しろ、勉強しろって、今日も喧嘩しちゃったよ」
 「なんで?」
 「姉さんに金出して貰う訳じゃ無いって言ってやった」
 「そうだな」
 「そうだろ」
 「そしたら何だって?」
 「馬鹿、良介の為に言ってやってんだよって」
 「そうだな、それは姉さんに座布団1枚」
 「そうか?」
 「俺もこんな美人に叱られてみたいよ」
 「粕谷ってマゾだったの?」
 「マゾじゃ無いけど、こんな美人ならマゾでも何でもなっちゃうぜ」
 「それじゃこれから一緒にうち行ってみる? 叱りつけて貰えるかも知れない」
 「俺が?」
 「うん」
 「何で?」
 「粕谷んち行くって言ったら、あの子がガンなんだなって言ってたから」
 「俺が悪者にされてるのか」
 「自分の弟を悪者にしたい姉さんなんていないからな」
 「ヒデエ。姉さんに好かれたいっていうのにお前のせいで嫌われるんじゃ叶わないな」
 「ナニ、僕が大学に入るまでのことだよ。大学に入ってしまえば、いいお友達だなんて言い出すさ」
 「それじゃ是非とも大学入ってくれよ、俺の為にも」
 「うん、どっか入るだろう」
 「そんな暢気なことで大丈夫なのかな」
 「粕谷までそんなこと言うなよ。此処は僕の避難所なんだから」
 「俺は全然構わないけど、やっぱり姉さんの言うとおり勉強した方が自分の為だぜ」
 「そんなこと分かってるんだ。分かってたって出来ないからやらないんで、出来れば言われる前にやってるだろ」
 「そうだな。小山良介君に座布団1枚」
 「それが姉さんは、分かっているならやんなさいって言うんだ。こういうのを何て言ったっけ? 泥棒に追い銭?」
 「ちょっと違うんじゃないか?」
 「割れ鍋に綴じ蓋?」
 「さあー?」
 「死に馬にムチ打つ?」
 「それが良さそうな感じ」
 「勉強ばっかしてるから、すぐこんなこと考えちゃうんだよ」
 「結構やってるんだ?」
 「うん、それなりに」

 良介は帰りにお腹をすかして泣いている子猫を拾って帰った。庭の片隅に昔使っていた犬小屋があって、此処に座布団の古いのを敷いてやり、帰りに買ってきた魚の缶詰を与えた。


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