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良助
【青春 恋愛小説】

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2 順子-7

 「プロバビリティ」
 「そう、それ」
 「あることって何? それが分からないと説明も出来ないよ」
 「うーん、それじゃ例えば、例えばの話だよ。例えば結婚とかまあそんなようなことだとして」
 「誰かが結婚を視野に入れてるって小山君に言った訳ね?」
 「うん。いや、例えばの話なんだ」
 「勿論例えばの話よ。それで小山君が例えば、それってどういう意味なんだって聞いたとしたら、その人が例えばの話し、そういう可能性もあるかな、それもポシビリティじゃなくてプロビリティかなって答えたっていう訳ね?」
 「涼子、プロバビリティ」
 「あ、そうだ移っちゃった。ポシビリティじゃなくてプロバビリティかなっていう訳ね?」
 「まあ例えばの話ね」
 「うん、例えばの話、それは誰なのかな?」
 「それは例えばの話だから木原でもいいんだ」
 「いいよ。涼子、もう分かったから」
 「そう?」
 「うん、大体」
 「何だよ。何2人でこそこそ話してんだよ」
 「ああ、その、どう説明するか分かったっていう話」
 「それで、どういう意味?」
 「可能性より蓋然性っていう意味」
 「蓋然性って何?」
 「それは日本語だから自分で調べなさい」

 良介は早速家に帰ると辞書を引いて調べてみたら、次のように書いてあった。

  『その事柄が、実際に起こる、あるいは真であることもあり、そうでないこともあるという性質をもつさま』

 「何だこれは。全然分からないじゃないか。随分難しい日本語なんだな。それを英語で言うんだから凄いことだな。田宮って天才だな。それにしても分からないな。姉さんに聞いたって分かる筈ないし、困ったもんだな、これは」
 と長い独り言を言った。受験勉強を始めて以来なんでも自分の部屋では声に出して考える癖が付いてしまったのである。
 「要するに可能性という程ではなくてひょっとするとひょっとする、なんて程度のことを言ったんだろうな。それならあり得るかもなあ。でも大学に入るのが先だな、どう考えても。浪人と結婚する訳無いんだから。大学入って何処か就職が決まったらひょっとするっていうことかな。結局大学に入らないとこれから先の人生は無いみたいだな。粕谷みたいに大学に行かなくてもいいような人生が羨ましいな。こういうのを生まれによる差別と言うんだろうな」

 良介は田宮順子と結婚したいと思っている訳では無い。少し晩生の良介は結婚なんておよそ考えたことも無かった。結婚すればセックスというのをするようになるらしいという程度は知っていた。しかし、そもそもセックスについて良く知らなかったし、良く知らないものについてどうしてもやりたいと考える筈も無い。
 ただ大和田裕子と一緒にいると楽しくて安心した時期があったように、今は田宮順子と一緒にいるととにかく楽しいのである。安心するという感じは余り無いが、心が躍るような楽しさは裕子の時には感じなかったものである。順子は顔や動作と同じように心の動きがいつもはつらつと躍動していて話が楽しい。良介はあまり口数が多い方ではないが、順子と話しているとどんどん引きずられて出てくるように喋ってしまう。こういうのが恋と言うのかと思うこともあるが、どうも良く分からない。恋焦がれるという言葉があるけれども、そういう感じはしないのだ。会っていれば楽しくて時間が経つのを忘れる程だが会っていない時には別に順子のことを考えたりはしない。

 良介は文化祭の翌日から毎日パンをポリ袋に入れて順子に持って行ってやっていた。良介は中学に通っていた頃は登校途中にある家の犬にやるのだと言ってパンを持っていったことが良くあるし、今でも捨てられた子猫を見ると放ってはおけない性格だから毎日学校へパンを持っていっても良介の家族は誰も不審に思わない。
  順子は良介にパンを貰うとそれを取って置いて昼に食べた。だから順子はいつも弁当のおかずだけ食べてご飯は残すことになる。順子は一人娘だから、いや、1人娘で無くとも、朝は食べないし昼はおかずだけというのでは親は心配することだろう。


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