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良助
【青春 恋愛小説】

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2 順子-11

 「そちらへどうぞ」
 「はい。では失礼します」
 「順子の父の順一郎と申します」
 「恵子の弟の良介と申します」
 「え? あ、いつも順子がお世話になっています」
 「いいえ僕の方がお世話になっています」
 「良介は少し黙ってなさい」
 「いやいや、どうぞお気楽に。それにしても大変な美人のお姉さんでいらっしゃる」
 「有り難うございます」
 「雑誌で拝見しました。ああいった写真はプロが撮るから美人に見えるのは当然で、実物に会うとたいしたことは無いということが多くてね。それでがっかりさせられものなんだけど、恵子さんは写真より遙かに美しい」
 「お父さん眼福でしょう?」
 「ん? ああ確かに」
 「ガンプクって何?」
 「眼が幸せっていうこと」
 「眼が幸せだから眼福か。するとおいしい物を食べると口が幸せで口福か」
 「そういう言い方はしないの」
 「田宮、貧乏だって嘘付いてたな」
 「ご免ね。もう明日からパンはいいよ」
 「何のことかね?」
 「あっ? 良介毎朝持っていくパンは犬にやるんじゃ無かったのか?」
 「うん」
 「ご免なさい。私が貧乏だから朝は食べないで学校に行くと言ったら小山君が可哀想だからと毎日パンを持ってきてくれたんです。私小山君がそんなことしてくれるのが嬉しくて今更貧乏で食べない訳じゃ無いとは言えなくなってしまって」
 「すると順子」
 「そう。毎日お弁当のご飯に手を付けなかったのは小山君に貰ったパンを食べていたからなの」
 「そうかー。それを聞いて安心した。どんなに心配したと思っているんだ?」
 「ご免なさい。でも友達にパンを貰ってるからとは言えなくて」
 「それはそうだ。しかしそういうことだったのか。余り親を心配させるもんでは無いぞ」
 「はい」
 「何で朝食べないの?」
 「朝は食欲が無いし、慣れてるからそれで平気なの」
 「それは良く無いな」
 「うん。分かっているけど食べられないものは食べられないもの」
 「そうかあ」
 「小山君ご免ね」
 「うん、パンなんかどうでもいいけど貧乏じゃなくて良かったね」
 「うん。有り難う」
 「それでやっぱり貧乏人の息子と付き合うなってこと?」
 「え?」
 「良介っ」
 「だってどうせ言われるなら早い方がいいだろ」
 「小山君違うよ。そんなことじゃないの」
 「何か誤解があるようですな。今日はただ順子がお付き合いさせて貰っている人がいるというのでおいで頂いただけですよ」
 「うちの娘と付き合うなと言う為では無いんですか?」
 「まさか。大事な娘に毎日パンを運んでくれるような親切な人に付き合うなと言ったりするもんですか」
 「ああ良かった。ほら見ろ姉さん」
 「はい?」
 「はい?じゃ無いだろ。果たし合いに行くって言ったのは誰だよ」
 「えーと。素敵なシャンデリアですね」
 「シャンデリアじゃないの。果たし合いだから最高にドレスアップしただの、ぼんくらでも可愛い弟だの言いたいこと言ってた癖に」
 「ハハハ、それは良かった。果たし合いに臨む意気でドレスアップされたんですか」
 「いえ、その、雑誌でご覧になったと聞きましたのでイメージを裏切ってはいけないと思いまして」
 「そんなこと言って無いだろ」
 「まあまあ。ちょっと可愛い弟さんをからかってみたんでしょう」
 「小山君。はい。お持たせですけどマロングラッセ」
 「お持たせって何?」
 「こちらで用意した物ではなくて持ってきてくれた物だという意味」


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