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良助
【青春 恋愛小説】

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2 順子-10

 「小山恵子さんでしょう? サインお願いします」
 「人違いです」
 「そうですかあ? 小山恵子さんじゃ無いですかあ?」
 「私は田宮順子です」
 「そうですか・・・」
 男は納得していない様子だったが渋々引き下がった。

 「姉さん凄いじゃないか。サインしてくれだなんて何時の間にスターになっちゃんたんだ?」
 「スターじゃない」
 「でもサインしてくれって言われるのはスターだってことじゃないか」
 「いつも私がこういう格好しない訳が分かっただろ?」
 「ああ、姉さんって知らない内に有名人になっていたんだ?」
 「有名人の弟にふさわしい大学に入って欲しいわね」
 「よし、それじゃ奮発して国立大学でも受けてみようかな」
 「受験料の無駄」
 「でも小山式勉強法を発明したから」
 「何それ?」
 「何それって言われても、田宮の許可がないと話せない」
 「何で? あの子がそれの特許でも持ってるの?」
 「そうじゃないけど、まあ代理人かな。いやマネージャーだ。マネージャーを通さないと話は出来ない」
 「何気取ってんだよ。それじゃ良介の方が有名人じゃないか」
 「うん、有名人の弟だから」
 「馬鹿。勉強に何式も無い。地道に勉強しなさい」
 「地道に勉強して受験に失敗したらどうする」
 「やっぱり地道じゃないやり方を考えてるんだな」
 「合理的と言って欲しい」
 「ほら、降りるよ。着いたよ」
 「何処で買い物する?」
 「駅ビルで買い物しよう」
 「うん。何買うの?」
 「そうだな。何か食べる物がいいと思う」
 「パンとか?」
 「馬鹿。人のうち訪ねるのにパン持って行く人がいるもんか」
 「それじゃ何?」
 「菓子折って言うくらいだから何かお菓子がいい」
 「饅頭とか?」
 「今時饅頭は流行らない」
 「じゃ今の流行って何?」
 「まあ見てから決めよう」
 「なるほどそうだね」

 結局マロングラッセの詰め合わせにして、待ち合わせの改札口に戻ると既に順子が来ていた。

 「あらあー。お久しぶりです。わぁー素敵なお洋服ですね」
 「有り難う」
 「電車の中でサインしてくれっていう男がいたよ」
 「そうですか。今やもう有名人ですものね。有名人でなくともその姿だとみんなに見られるでしょう」
 「だから一緒に歩くの厭なんだ」
 「良介が見られる訳じゃないよ」
 「それじゃ歩いても遠くは無いんですけどタクシーで行きましょうか」
 「うん」

 「やあ、良くいらっしゃいました。どうぞお上がり下さい」
 「はい。この度はお招き有り難うございます。小山良介の姉の恵子と申します。良介がお世話になっております」
 「いえいえ、まあとにかくお上がり下さい」
 「はい」
 
 「凄い家だね。姉さん」
 「当たり前よ。銀行の頭取だもの」
 「やっぱり金持ちだったんだ。驚いた」
 「覚悟はいいね?」
 「何の?」
 「お前のような貧乏人の息子にうちの娘はやれるかって言われるんだよ」
 「僕っていつから姉さんの息子になったの?」
 「今日は母さんの代理で来てんの」
 「それじゃ代理じゃなくて母さんに来て貰えば良かった」
 「もう遅い」


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