1 裕子-9
「お母さんに似ているの?」
「お袋さんの顔は全然違う」
「それでお袋さんも美人なの?」
「そうとは言い難い」
「もう止しなさい、みんな。小山君気にしたら駄目よ」
「僕は室野が何を言っても気にしない。だってあいつは馬鹿だから」
「んまあ、人を目の前にしてあいつは無いでしょう」
「馬鹿はあっち行け」
「馬鹿馬鹿言わなくても行くわ、馬鹿」
「お前はそれでも女か。少しは大和田さんを見習え」
「おっ、出ました。良介君。はい、告白タイムです」
「粕谷もうるさい。あっちへ行け」
「みんな、小山君をからかうのはいい加減にしなさい」
「はいはいお姫様」
「あいつら腐ってる」
「相手にしないでいいの」
「相手になんかするもんか」
「小山君が素直でいい子だからみんなからかって喜んでいるのよ」
「大和田さんまで僕のこといい子なんて言うな」
「あっ、ご免なさい。私長女だから知らない内に癖が出ちゃうのね。ご免ね」
「うん、まあ大和田さんは悪気が無いから許す」
「室野さんも悪気は無いのよ、本当は」
「あいつは悪気の塊だ」
「小山君が可愛いからからかうのよ」
「僕は女じゃない」
「男だって可愛い人と可愛い気の無い人っているものよ」
「そうか」
「お腹すいたね」
「うん」
「何か食べに行こうか?」
「うん」
「あらら、2人で又何処かへ出かけるぞ」
「仲が御宜しいことで」
「うん、ちょっと何か食べてくる」
「あいつらにいちいち言うことは無い」
「うん、行こう」
校門を出た所に甘いもの屋があってラーメンや焼きそばもある。何処かへ食べに行こうと言えば此処に決まっている。校門に向かって2人で歩いていると向こうから田宮順子がやってきた。
「あら、何処へ行くの?」
「うん、ラーメン食べようと思って」
「あっ、私も食べたい」
「じゃ一緒に行こう」
「うん、いい?」
「いいよ。ねえ?」
良介はパッと咲いた大輪の花のようにあでやかな雰囲気の田宮順子が、嫌いというのとは違うがなんとなく苦手である。彼女と一緒にいると周囲の人が皆良介を見るような気がして落ち着かないのだ。しかし大和田裕子と3人なら全然問題無い。2人きりだと何となく気後れして田宮さんと呼ぶのに誰かがまざると気楽になって田宮と呼び捨てにしてしまう。
「うん。田宮何処行ってたの?」
「私1度家に戻って又来たの」
「なんで?」
「お母さんが風邪ひいてるから戻ったんだけどもう治ったって」
「そうか、それじゃ一緒に行こう」