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良助
【青春 恋愛小説】

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1 裕子-26

 「あいつの親父何やってるの?」
 「社長さん」
 「社長って金持ちなんだな」
 「うちのお父さんも社長だけど貧乏だよ」
 「田宮んちは貧乏なのか?」
 「うん、だから朝は食べないで学校に来るの」
 「何? それで昼まで持つのか?」
 「うん。慣れてるから」
 「それは良くないな。今度からパン持ってきてやろうか?」
 「有り難う。小山君優しいね」
 「田宮さんのお父さんは銀行の頭取なのよ」
 「トードリ? 社長じゃないのか?」
 「銀行の社長は頭取って言うの」
 「銀行の社長? それじゃ金持ちなんだろ」
 「全然。自分で会社を作って社長になった人はお金持ちだけど、前からある会社の社長になった人はサラリーマンと同じだもの」
 「そうか。そういうもんなのか」
 「だから、明日からパン持って来てね」
 「うん。それくらいは何でも無い」

 芳恵の家の客間は粕谷マサルの家の貸しホールくらいの広さがあり、クラスの半分以上の人数が既に来ていた。芳恵の両親らしい人の姿も見えた。裕子はその人の所へ行って挨拶していたが、順子と良介は芳恵にすぐ捕まって席に案内された。と言っても席が決まっている訳では無く、皆適当に座っていた。良介は話をする間もなくすぐに裕子が来て
 「ちょっと芳恵のお父さんが小山君と話してみたいようだから、一緒に行きましょう」
 「何の話?」
 「ただの挨拶よ」
 「挨拶しないといけないか?」
 「田宮さんも行こう」
 「そうね」
 「僕も?」
 「そうよ」
 「何と言えばいいんだ?」
 「名前だけ言えばいいのよ」
 「そうか、それだけでいいのか」

 「小山君と田宮さんです」
 「おお、これは可愛い。いや、可愛いではなくて美人と言わないと叱られるかな」
 「いえ、どちらにしても有り難うございます」
 「お父さん、銀行の頭取されてるそうだね」
 「はい」
 「以前1度お会いしたことがありますよ」
 「そうですか」
 「宜しくお伝え下さい」
 「はい、申し伝えます」
 「小山君ですね」
 「良介です」
 「小山良介君と言うのか。いつもうちの芳恵がお世話になっているみたいだね」
 「別に世話なんてしたことは無いです」
 「え?」
 「凄いうちですね。此処だけでうちよりずっと広い」
 「そうかね。気に入ったらこれからちょくちょく来るといい」
 「何しに来るんですか?」
 「え?」
 「遊びに来なさいという意味」
 「何で?」
 「あのね、よろしくお願いしますってよく言うでしょ? 遊びに来なさいというのはそれと同じなの」
 「ああそうか」
 「そうだよ。よろしくお願いします」
 「困ったな」
 「困らなくていいの。小山君も、よろしくお願いしますと言えばいいのよ」
 「よろしくお願いします」
 「ハハハ。まあゆっくりして行きなさい」
 「小山君はもういいよ。田宮さんお願いね」
 「うん。小山君あっちのグループの所に行ってみよう」
 「うん。あれっ? 粕谷がいる。行ってみよう」
 「お気を悪くしないで下さい。小山君は口下手で社交辞令が言えない子なんです」
 「そうか。しかし芳恵の話に良く名前が出てくるから仲良しなんだと思うが」
 「はい。うちのクラスはみんな仲がいいんです」
 「君はどうやらみんなのまとめ役のような人なんだね」
 「いいえ、そんなことはありません」
 「まあ今日は君たちにとっては正月みたいなもんなんだろうから、大いに羽目を外してゆっくり楽しんで行きなさい」
 「はい。有り難うございます」


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