1 裕子-13
「小山君と約束してんでしょ?」
「うん」
「あいつも一緒に連れてくればいいよ」
「うん、どうしよう」
「大丈夫だよ。裕子が来ればあいつも来るよ」
「うん、その時の様子で行けたら行かせて貰う。私1人で行くことになってもいいかしら?」
「勿論いいよ」
「それじゃ、とにかく電話するわ」
「うん、待ってる」
「お前文化祭のあとどんな予定になってんの?」
「夜のこと?」
「ああ」
「大和田さんとカラオケに行く」
「へぇー、やるなあ、お前も」
「2人だけじゃ無いんだ」
「なんだ、他は誰だ」
「田宮」
「えっ? 田宮って田宮順子?」
「他に田宮っていないだろ」
「そうだけど、あいつ俺の誘いを断って良介とデートすんのか」
「デートじゃない、カラオケ」
「だからそれがデートって言うんだ」
「そうか」
「でも、ま、3人ならいいか。許してやろう」
「粕谷も来たければ来いよ」
「うん、それが俺には予定がある」
「どんな?」
「木原涼子とデート」
「木原なら室野のうちに行くことになってる」
「何で? 何でお前知ってんの?」
「室野が言ってた」
「室野が? それはいかん。確認しておかないといかんな」
「でも分かんない。室野から聞いただけだから」
「お前、室野と話したの?」
「うん」
「へえ、お前も大人になったんだな」
「何で? 前から大人だ」
「早速木原に念を押しておかないといかんなあ」
「だから木原から聞いた訳じゃないから」
「でも室野が言うんなら確かだろ。あいつら仲がいいから」
「でも木原と約束したんだろ?」
「それがな、微妙なニュアンスなんだ」
「どういう?」
「文化祭の後でデートしようって言ったら、いいわあ、そういう話は大歓迎よって言ったんだ」
「それで?」
「それだけ」
「何処に行くことになってんの?」
「だからそれはまだ」
「それは随分微妙だな」
「そういうことだな」
「粕谷、田宮と木原とどっちが好きなの?」
「甲乙付けがたいな」
「どっちも好きなのか?」
「まあ、そういうことだな。お前はどっちの方がいいと思う?」
「分からない」
「どっちも興味無しか?」
「うん」
「お前、女見るとき何処見てんの?」
「何処って?」
「顔じゃなくて性格に惹かれんの?」
「さあ、どうなんだろ」
「どうなんだろって、自分のこと分かんないの?」
「そんなこと考えたこと無い」
「大和田なんて全然色気無いぜ」
「色気?」
「ああ」
「色気って?」
「やりたいっていう気にさせるとこ」
「セックスのこと?」
「ああ」
「粕谷そんなこと考えて女と付き合ってんの?」
「そいじゃ、お前何考えて女と付き合ってんの?」
「まだ女と付き合ったこと無い」
「なるほど、それは悪かった」
文化祭の前々日になってクラスの全員による衣装あわせをすることになった。良介は初めて自分の着る服を裕子から見せられた。