妙子2-5
「お前の家は何処だ」
「駅の反対側にゴチャゴチャとアパートがいっぱい建ってる所があるでしょ? あそこ」
「それじゃ、お前のうちも近いじゃないか」
「うん。でも駅のこっち側に移りたいな」
「何で?」
「向こう側に行く時踏み切りか地下道通らないといけないでしょ? 踏み切りはなかなか開かないし、地下道は薄暗くて恐いんだもん」
「女だからな」
「うん」
「お前は店では売れっ子の方か?」
「真ん中へんだと思う」
「そうか」
「トップはさっき言った久美ちゃんで、2番はエリカさん。後は20人くらい大して変わりなくて月によって順番が入れ替わるって感じ。その下に売れない子が10人くらいいる」
「お前はその20人の中に入ってるのか?」
「うん」
「そうするとお前も3番目になることがある訳だな」
「偶にね」
「偶にでも3番なら凄い」
「でも20番くらいになることもあるの」
「それは仕方ない。勝敗は時の運だからな」
「え?」
「さて、もう地下道を潜り抜けたから後はいいだろう」
「うん。助かった」
「俺は此処で引き返すぞ」
「えっ?」
「後は恐いことはないだろう」
「送ってやるって言うから家まで来るつもりなのかと思った」
「家まで送って欲しいのか?」
「ううん。家まで送るって言ったらどうしようか考えてたの」
「小さい頭でそんなこと悩んでたのか」
「うん」
「それじゃもう悩まなくていいから気を付けて帰れよ」
「又来てね」
「ああ」
「本当よ」
「ああ」
「あっ、本当に来てくれた」
「いけなかったか?」
「ううん。嬉しいけど、来ないかと思ってた」
「何で?」
「何かアッサリした人だから」
「あっさり?」
「しつこく迫ってくれば又来るなって思うけど」
「なるほど」
「ねえ。私考えたんだけど、やっぱり研の言うことって正しかったんだと思うよ」
「何が? 何のことだ?」
「あのお寿司屋の値段のこと」
「お前金勘定しながら喰ってたのか?」
「そうじゃないけど、凄く安かったでしょ?」
「そうか? あんなもんだろう」
「だって前にお客さんと行った時なんか3万円だったよ」
「ほう」
「その時はあんなに食べなかったよ」
「そうか」
「私って馬鹿だから、何をいくつ食べたか良く覚えてないんだけど、研と行った時ほどは食べなかった。絶対それは間違いないよ」
「誰だって何をいくつ喰ったかなんて覚えてない」
「だからやっぱり研の言う通りだったんだね」
「お前が3万円払った訳じゃないんだろ?」
「うん」
「それじゃ、いいじゃないか」
「そうだけど」
「寿司屋に行ってお前が払うことなんてあるのか?」
「そういう時は回転寿司しか行かない」
「そうか。それは利口だな。ああいう店はあの時言ったとおり、男がちょっといい女を連れて行くもんなんだ」
「凄くいい女じゃいけないの?」
「それは言葉の綾でそう言ったんだ。お前は凄くいい女だよ」