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クッキーの行方
【その他 官能小説】

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クッキーの行方-1

(1)

 ドアがノックされ、西村はやや緊張した肩をほぐすように回し、タバコをもみ消して立ち上がった。

「こんばんは」
覗いた顔を見て、戸惑った。
(部屋を間違えたんじゃないのか?)
笑顔を見せながら軽く会釈をした女は、女子大生かと思われる雰囲気である。若い、だけでなく、スーツ姿にベージュのコートを腕に掛けた見掛けは清潔感すら感じる。

「あの……」
問いかけると、
「ラブタイムの者です」
声を落として言った。
「あ、そう……」
招き入れ、内心少し動揺していた。
(こんな娘がいるんだ……)
想像していたイメージとは違っていた驚きとともに、ときめきを覚えていた。
 デリバリーヘルスを呼んだのは初めてのことだ。てっきり、いかにも風俗というスレた女だろうと考えていたのである。

 西村は今年50歳になる。独身時代に何度かはけ口を求めたことはあったが、結婚してからは遊んだことは1度もない。誘惑にかられたことはあったが、
(きっと後悔する……)
一時の欲望は呆気なく終わる。事後の虚しさが先立って想像され、踏み込む気になれなかったのである。
 ふと心が疼いた切っ掛けは、思いがけなく巡ってきた出張であった。

 彼の会社は農作物の肥料を扱っていて、全国の販売店と契約して卸している。それらの店への営業が彼の仕事である。ほとんどが中小規模の取引先である。量販店との契約もあるが、それは本部の対応になる。小さな地方の店も大切にするのが会社の方針であった。

 東北エリアを回ってくれと言われたのは2月の初めのことだ。ふだん関東エリアを担当している西村が東北に行くことはない。理由は担当者がインフルエンザに罹ってしまったという。助っ人ということであった。
 この時期、春から夏、秋、冬と様々な作付けが続き、肥料の販売見込みの大半が決まってくる。大事な営業ポイントなのである。年末からほぼ実績や電話営業で目算は立っているが、やはり直接顔を出すのが、まとめ、なのだった。

 4泊5日で宮城、岩手、山形の3県を回る。現地に営業所はあるが、本社からの顔見せ、挨拶は重要なのである。
(慣れぬ土地……)
楽ではないが、西村は降ってわいた役目に少しく浮ついた気持ちを禁じ得なかった。4泊する出張は初めてのこと、仕事とはいえ夜は自由だ。具体的に何をしようと考えたわけではないが、何だか解放された気分になったものである。


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