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クッキーの行方
【その他 官能小説】

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クッキーの行方-6

(6)

 まゆみの声を聴いたのは金曜日の夜のことである。ホテルの電話を使おうかと迷ったが、携帯で掛けた。
(デリヘルを呼ぶのではない……まゆみに掛けるんだ……)

「はい……」
憶えのない番号に不審に思っているのか、抑えた声が聴こえた。
「まゆみさんですか?」
「……はい」
西村はホテルの名を出し、メモをもらったことを話した。
「チョコをいただきました」
「ああ……ふふ、その節は……」
「いま、大丈夫?」
「はい、アパートにいます」
「西村っていうんだ」
「西村さん……」
「仕事が予定より早く終わってね、明日と明後日、時間ができたもんだから……」
「そうですか……」
西村は言い淀みながらも勇気を振り絞った。こんな機会はもうないかもしれない。いや、あり得ない。駄目で元々だと思い切った。
『どこか温泉にでも行かないか?』
脇から汗が流れた。

意外にもまゆみの言葉は自然だった。
「温泉か……いいですね」
応じてくれた返事ではないが、即座に断られることも覚悟していたのでそれだけでもほっとした。
「仕事かな?」
「いえ、やめました」
「やめた……決心したの?」
「西村さんとお話しして、気持ちが決まったんです」
「そんな、何か大事なこと言ったかな」
「いろいろ考えさせてくれたってことですよ」
「それじゃ、電話なんかして悪かったね」
「いえ、うれしいですよ。……でも……」
言葉が途切れ、西村も黙った。

「秋保温泉、いいみたいですね」
まゆみの口調は明るかった。
「秋保……」
行ったことはないが、知ってはいる。
「連れてってくれるんですか?」
「うん。……来てくれる?」
「よろこんで」
おどけたような大きな声に西村は力が抜けて椅子の背にもたれかかった。知らずうちに体が硬くなっていたようだった。
「すぐ、どこか探してみる。また電話する」
「はい。お待ちしています」
「電話するよ」
「はい」
まゆみの抑えた笑いが心地よく響いた。


 


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