昨晩のこと (1) 残り香-1
妻の尻をゆっくりと撫で回す。
丸みを帯びたちょうどよい膨らみが手のひらに心地よい。
まさぐるように尻肉を掴んでゆっくり持ち上げたり広げたりする。
ぺしぺし叩くとぷるん、ぷるるんと適度なハリとたるみを示す。
人妻らしくきちんとひとつ結びにしている髪からは、私の好きなゆきの匂いが立ち上ってくる。
甘くて少し汗臭い、濃厚な妻の匂い。
頭髪に鼻を押し付けて匂いを嗅ぐ。
「シャワーまだ浴びてないからあんまり嗅がないで……」
「ほんとだ。ゆきの匂いがいっぱいしてる」
「いやぁ……! やめて……」
「じゃあこっち」
Tシャツの腋の下の部分に鼻を押し付ける。クンクンと鼻を鳴らして匂いを吸い込む。
七月の陽気でしっとり汗ばんでいて、ほんのり甘く酸っぱい人妻の香りが鼻腔を刺激する。
「あぁ……あ……」
手を上に挙げさせて鼻先をぐりぐりと腋の下に押し付け、さらに妻を辱める。
両手はTシャツとブラをかいくぐり胸の膨らみの先端を探り当てた。つんと勃った蕾を親指と中指でつまんで転がす。
「ぁん……!」
恥ずかしさと気持ちよさで身を捩るゆき。
Tシャツの袖口をまくり腋の下を露出させて羞恥を煽る。
手入れされた腋毛の毛穴ひとつひとつから腋汗が滲み出ている。
鼻先をくっつけて匂いを嗅ぎながら、舌先でツツとすくい取るように分泌液を味わう。
昨晩から二人の男に繰り返し愛された身体からは、フェロモンをたっぷり含んだ濃厚な汗の匂いと味がした。
玄関でZを見送った私たちはもう一秒も我慢できずその場で抱き合い行為をはじめた。
ゆきはもう今日だけで三回目の行為だが疲れた様子も見せず応えてくれた。
腋の下の匂いを嗅がれて辱められ、両乳首は手のひらで優しく刺激されて興奮が高まってきたようだ。
頬が紅潮し目を潤ませて私の愛撫を受け入れている。
「キスしていい?」
「パパはいいの?」
いたずらっぽい笑みを浮かべて聞き返してくるゆき。
「いいよ」
ついさきほどの朝のセックスでZのペニスを頬張り射精を受け止め、すべてを飲み込んだばかりの口にキスをする。
「んん……!」
唇をこじ開けて舌を絡ませるとまだ少しZの精液の匂いが残っている。
「まだ匂いしてるね」
「変態……!」
そう言いながらゆきもさらに興奮したように舌を絡めてきた。
私たちはエアコンの効いていない玄関で汗だくになって抱きしめあい愛撫しあった。
妻を裏返して四つん這いにし、尻を突き出させる。
細めのデニムでパツンパツンになった尻。下着のラインがうっすらと浮かんでいる。
尻に顔を押し付けて妻の股間の匂いを堪能する。
「そこはちょっと……ねえ……」
デニムのボタンを外しチャックを下ろしていっきに脱がす。
丸い尻にぺったりと張り付いた下着はTシャツ以上にじっとり汗ばんでいる。
中心の三角地帯に顔全体を埋めるとむせ返るような酸っぱい匂いが襲ってきた。
ゆきの大きな尻に顔を包まれながら口と鼻両方で夢中になって匂いを嗅ぐ。
ときに細かく早く、ときに大きくたっぷりと息を吸い込み、妻のセックスの残り香を堪能する。
いや、残り香などという上品なものではない。
下着の中で濃い目の陰毛と肉襞に絡みついた愛液や汗が蒸れたせいだろう、清楚な外見に似つかわしくない強烈な酸味臭を発している。
「ねぇ……! ホントに!」
私の下から逃げて恥ずかしそうにキスでごまかしてくるゆき。
「ごめんね、困らせちゃった?」
「わざとやったクセに」
「そういうのが好きなんだよ」
「知ってる。でもホントに恥ずかしいから……」
ゆきに言われずとも私にできるのはここまでである。
私のセックスコンプレックスは重症で、フェラチオで萎えるだけでなく、実は女性にクンニも手淫もしたことがない。
ペニスにしろ手や口にしろ、自分が女性を気持ちよくできる自信がまったくない。前戯もそこそこに慌ただしく挿入し独りよがりに射精しておしまい。
だからこそ、そんな私とのセックスでも「大丈夫だよ」と安心させてくれて「幸せ」「エッチできて嬉しい」と無条件で受け入れ肯定してくれるゆきの存在がどれほど私の救いになっていることか。
余談だが、ゆきのおかげで近年ようやく落ち着いて挿入できるようになり、まったりキスやおしゃべりを楽しむ「スローセックス」なる夫婦のコミュニケーションもできるようになった。肉体的な快楽とは程遠いが、性器を結合させ裸で抱き合うだけで心の充足と癒やしを得られる営みを、私たちは気に入っていた。
もちろんゆきも一人の女性として、身体の奥まで男の欲望に貫かれ激しく犯されるセックスを楽しみたいという気持ちはあるだろう。
Zに抱かれ、私には見せたことのない痴態を晒す妻を見て、私は興奮とともにどこか安心する思いもあった。ゆきは絶対認めないし「パパのため」という建前を崩さないが、何度もオーガズムに導かれるセックスを実は喜んでいるのではないか。私の変態性癖からはじまった妻の他人への貸し出しという遊びを、ゆきも楽しんでくれているならそれに越したことはない。