ちひろ―屈服-3
「まだ名前を聞いてなかったな。自己紹介してもらおうか」
「は、はい。田中ちひろ、23歳です。四星銀行日比谷支店に勤めるOLです」
正義感あふれるちひろが、今ではすっかり従順でおとなしい子羊になっていた。
「そっちの女は亜紀とか言ったな」
「は、はい。川田亜紀、23歳です。角紅物産の丸の内本社に勤務しています」
「二人はどういう関係なんだ?」
今度は弟が聞いた。
「聖嘉女子大ハイキング部のOGです」
ちひろがすっかり意気消沈しているので、亜紀が答えた。
「ふーん。一流大学から一流企業のエリートってわけか」
「三流農業高校のオレ達とは大違いだな」
二人は自嘲気味に笑った。
「ついでにオレ達も自己紹介しといてやろう。オレは竜一。そいつは銀二。もう分かっていると思うけど兄弟だ。」
さらに竜一は続けた。
「今は親の残してくれた財産で生活してるって訳だ」
誰に聞かせるでもなく、淡々と話した。
「みかん山もだいぶ人手に渡ったけど、ここだけは売りたくねえんだよ」
「思い出のいっぱい詰まった山だからなあ」
今度は銀二が話した。郷愁の念に駆られたのか、男たちの会話はいつの間にか故郷を思うノスタルジーへと変わっていた。表情も穏やかに変化している。ちひろも亜紀もこのまま解放してもらえるんではないかと、微かな期待を持っていた。
感傷に浸りながら竜一が背後のみかん山を振り返ったその瞬間、口中を酸味を含んだだ液が溢れ出した。舌先に激痛が走ったその刹那、竜一の今までの穏やかな様相が一変し、元のサディスティックな表情に激変していた。
「手を下ろせ!」
いきなり持っていたスカーフを胸の前で交叉していたちひろの手の甲に叩きつけた。
ピシイッ!−−−。
「ひいッ!」
悲鳴とともに、ちひろは反射的に直立不動の姿勢になった。
「聞こえたら返事をしないかッ!」
そう怒鳴ると、水分を含んで重くなったスカーフを乳房めがけて水平に投げつけた。弓のようにしなったムチはまず左のふくらみを捉え、次の瞬間右のふくらみに突き刺さった。
「ギャアーッ!」
先程の男の命令も忘れて悲鳴を上げた。今打たれたはち切れるような双乳には、鮮やかなムチ跡が一直線に残されていた。それは痛々しくもあり、嗜虐的でもあった。
「返事をしろと言ったんだッ、また叩かれたいのかッ!」
「は、はい。ごめんなさい・・・許してください」
怒気を含んだ男の声に怯えながら、ちひろはやっとの思いで謝罪の言葉を口にした。
「お前に噛まれた舌が痛くてたまんねえんだよ。どうしてくれるんだ!」
竜一はスカーフの両端を左右の手で持ちながら、ちひろの顔前にそのムチをかざした。その男の眼は女を辱め、虐めることに喜びを感じるまさにサディストのそれだった。
「本当に申し訳ありませんでした。二度と逆らったりしませんからムチだけはお許しください」
ちひろは深々と頭を下げた。大粒の涙が後から後から込み上げてきて、その足元に流れ落ちる。
「まあいいだろう」
許されたと思ったちひろは顔を上げた。
「最初からそう素直にしていれば痛い思いをしないで済んだんだ。分かったか、ちひろッ!」
そう言うと、満身の力を込めてムチを振り下ろした。