信頼-6
「んー、肩こったなぁー。」
この日はあまりお客も来ず、ほぼレジで突っ立っていた。
「忙しくないのは良いけど、それはそれで少し嫌だな。」
私は休憩時間となり、休憩室へ足を運ぶ。するとそこには既に先客が居た。
「小鳥遊、先輩。」
テーブルを両手に置き、その上に額をつけ寝ている。
この日も彼は大活躍だった、私以上に頑張っていて、お客や店長たちからも信頼が厚いようで。
そう考えるとまるで自分の事のように嬉しくなってきた。
「んー。」
ぐっすりと熟睡する彼、このまま寝かせてあげたい…でも。
部屋に掛けてある時計の時刻が刻一刻と迫っている。
彼の事だから放って置いても自分で起きるとは思うけど。
「……。」
私は少しでも彼の力になりたい、ううん関りを持ちたい。私は彼の眠るテーブルへと近寄りそっと肩を揺する。
「先輩、…小鳥遊先輩。」
「若葉、ちゃん。」
この時の私の頭から柊先輩の存在が薄れ掛かかっており、彼のその寝言には全く耳に入っては来ず。
「駄目ね、熟睡してるかも。」
「……。」
シーンとする部屋、そこには私とそして無防備な彼が。
「小鳥遊、先輩…。」
寝顔もまた可愛い。昨日は多忙な現場でも頼もしくしたり、帰りでは私の事送ってくれたりと紳士な一面を見せ。
本当に、彼は良い所だらけ。
私はそんな彼を愛おしく見つめ、そしてその大好きな顔をもっと間近で見つめ。
彼が眠っている事を良いことに本音を溢す。
「先輩あのね…私、先輩の事が好きです。あの時偶然出会ったあの日から、ずーと。最初は落ち込んでるのに雨だ何て最悪だよーって……けど今はそうは思わない、あの雨に感謝してるんです、そうでしょ?貴方だって雨も降ってないのに傘をさして…違うか、私が雨宿りをしないで、きっとこの同じ町を歩いてるだけで、お互いを知る事もなかった。」
運命を、感じるな。
幸福に満ち溢れた独り言がこの静寂に包まれた部屋に虚しく響き渡る。
「先輩…、大好きですよ?」
そう呟き、私は無防備な彼の頬にキスをした…。
「んっんーー!」
「っ!」
彼が急に目を覚まし、私はスッと彼から離れる。
「ふぁーあ良く寝たぁー、さぁーてと午後も…。」
「……。」
「あれ、どうしたの?」
「え、それはーその。」
どうやら私の独り言もキスも全く気付いていない、らしい。幸か不幸か…。
「あ、そろそろ時間かなぁーって思って。」
「そっか、ありがとね態々。」
イスから立ち、背伸びをしたのに、私にも声をかけ共に休憩室を後にする。
先輩、あのキスはただの口づけじゃありませんよ、あれは先輩への確かな愛、先輩は私の物だという明白な証、何ですから…。