お世話いたします……-12
(12)
専務は再三私に謝罪し、決して風俗の代用で私を採用したのではないと、静かな物言いながらきっぱりと言った。
「主人は、昂奮を得られればいいと思っていたのです。あなたから感じられる女性のやさしさに触れて、甘えて、それで満足するはずだったのです」
それ以上のことを考えてはいなかった。あくまでも『お世話』の範囲でと夫婦で約束していたというのだった。
「それが、あなたの魅力にどうしようもなくなったみたい」
まさか、結ばれてしまうなんて……。
「……すみません……」
「謝るのは私たち。あなたを騙したようなものですから」
自分たち夫婦の個人的問題であなたの精神も体も傷つけてしまったとしたら償いようがない。どんな理由があろうと、身勝手なことだったと専務は深々と頭を下げた。
「でも、こんなこと言える立場じゃないけど、正直なところ、ちょっと嫉妬したのよ。主人が自制できないほど昂奮したことに……」
経緯を聞きながら、私の中に不快感は芽生えなかった。
(おかしいと思った……)
秘書だなんて……。だからいいお給料、お手当だったのだ。たしかに騙されたのだろうけど、自分が性の奴隷みたいに扱われたのではないと思っていた。いろいろな夫婦があり、苦労があるのだ。
そう思ったのはやはり、
(結合は私からしたこと……)
その事実に尽きる。これまで最高の絶頂を味わった。しかも乱れに乱れて3回も……。まさか社長も行為の詳細を話してはいないだろう。
「あなたのプライドを傷つけてしまったかもしれないわね……許してね……」
お金の問題ではないけれど、慰労金を含め、出来るだけのことはすると専務は言った。
「短い間だったけど、ありがとう」
「あの……」
「はい?」
「社長は何とおっしゃってますか?」
専務は少し間をおいて、
「主人はあなたの虜ですよ。あなたほどの魅力の人はいないって……」
さんざん話し合ったが納得はしていないという。
「でも、やはり、間違っているわね……」
そして、
「これから、お仕事探すのかしら?」
「はい……」
「もしよかったら、本社にいろいろあるけど、どうかしら」
「はい、それはもう……でも……」
私の気持ちは揺れてはいなかった。辞表を提出したのは専務が知らないものだと思っていたからだ。2人で決めた『お世話係』の募集だったのなら、話は別……。性的興奮が目的なら、そこから突き進む男女の行き着く先も想定されるはず。私に謝ったけれど、
(専務はそうなることも予想していた……)
いや、むしろ願っていたのかもしれない。強すぎる性欲も若い体なら快楽へとつながっていくが、年齢とともに重い負担となっていくのだろう。
「私、ご自宅がいいです……」
「え?」
「私にお世話させてください」
思い切って言い、同時に専務の表情を窺った。明らかに一瞬、頬が緩んだ。
「専務のお許しがあれば……」
「新田さん……」
今度ははっきり笑みを見せた。
「世話係、続けてくれるの?」
「はい」
「よかった。助かるわ」
「私でいいんですか?」
「あなたじゃないとだめなの、主人」
「専務は?」
「私もよ、私も。いいのね?」
「はい。お世話いたします」
私も『お世話になる』……。社長の一物を思い出し、こんな時に秘唇が潤いが滲んできた。